量子ドットに閉じ込められた電子の幾何学的配置を実験で特定することに成功

Image: University of Basel, Departement of Physics

スイスのバーゼル大学の研究チームは、量子ドット内の単一電子の幾何学的配置を特定する方法を発見したと発表した。電子の波動関数がサブナノスケールの精度で分かるため、電子スピンの制御の改善、ひいては量子コンピュータの発展につながる。実験結果は2019年5月22日付けの『Physical Review Letters』に、関連する理論は2019年2月22日付けの『Physical Review B』に掲載されている。

量子コンピュータにおいて、情報の最小単位は量子ビットという。量子ビットとして電子スピンの利用が有力だと考えられているが、量子ビットの実現には長期安定性と素早いスイッチング動作が必要だ。スピンの制御、切り換え、ほかのスピンとの結合といった試みは、多くの研究グループで取り組まれている。単一電子のスピンの安定性と様々なスピンとのもつれで特に重要なのは、電子の幾何学的配置を知ることだ。しかし、その配置はこれまでは実験的に決定するのは不可能であった。

Dominik Zumbuhl教授とDaniel Loss教授が率いる研究チームは、電子の幾何学的配置を決定するために、電子を閉じ込めた量子ドットを利用した。電場をかけると電子は量子ドットに束縛されるが、電子は空間内を移動し、閉じ込められた中のある場所に留まる。それは、波動関数に応じた確率によって決まる。

研究チームは分光計測を利用して、半導体ウエハ内の二次元ガス中に形成した量子ドットのエネルギー準位を決定し、さまざまな強さや方向をもった磁場中のエネルギー準位の振る舞いを調べることで、電子の確率密度、波動関数をサブナノスケールの精度で決定することができた。

「簡単に言うと、我々は電子がどのように見えるかを初めて示したということになる」とLoss教授は説明する。

また、電子の空間的方向は、複数のスピン間の量子もつれにおいて役割を果たす。2原子が結合して1分子になるのと同様に、2電子の波動関数が正しくもつれるためには同一平面内にある必要がある。研究チームは、日本、スロバキア、アメリカの研究者らと協力して、電子の幾何学的配置とスピンの相関関係についても知見を得た。

Zumbuhl教授は「我々は電子の形状と方向をマッピングできるだけでなく、印加電界の状態に応じて波動関数を制御することもできる。つまり、非常に的確な方法でスピン制御を最適化できる」と、電子スピン量子ビット制御の実現性について語っている。

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The geometry of an electron determined for the first time

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