循環型社会を目指す――米Ford、自動車の廃プラスチックをグラフェンにアップサイクル

Photo by Jeff Fitlow

米ライス大学と米Fordは、廃車に含まれるプラスチックを効率的にリサイクルできるプロセスを開発した。独自の「フラッシュグラフェン製造技術」を活用して、自動車のバンパーやシートをもとにグラフェンに変換し、さらにそのグラフェンを使って新たな自動車用材料にアップサイクルできる。研究結果は、2022年5月26日付けで『Communications Engineering』に掲載されている。

現在、全世界の乗用車の総数は、14億台と推定されている。燃費向上を目的とした車両軽量化のため、平均的なSUVに使われるプラスチックの量は1台あたり350kgまで増加しており、使用後の処理が社会問題となっている。環境への影響を最小限にしつつ、資源を有効活用するため、例えばEUでは車両重量の95%以上の部材をリサイクルすることを目標に掲げている。

溶かして再利用しやすいPETボトルとは違い、さまざまな素材が複雑に組み合わさった車両のプラスチック部品は、材料の分離が難しい。そこでFordは、2020年にライス大学のJames Tour教授らが発表したフラッシュグラフェンの製造技術に着目した。

フラッシュグラフェンとは、混合プラスチック粉末とコークスを専用のリアクターに入れ、約3000Kまで瞬時に(フラッシュ)加熱し、非炭素元素を全てガスとして放出させた後にできた乱層グラフェンのことだ。このプロセスには、溶媒が不要で、エネルギーも少なくてすむという利点がある。

例えば、Fordのピックアップトラック「F-150」に使われるバンパー、ガスケット、カーペット、マット、シート、ドアケースは、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミドなど多くのプラスチックを含む。Tour教授らは廃車されたF-150から、それらパーツを洗浄や分別することなく粉砕し、2段階の電流レベルを経て、フラッシュグラフェンを取り出した。理論的には、初期重量の約25%を回収できるという。

導電性や熱的、化学的安定性を備えるグラフェンは、プラスチックの特性を強化する添加剤としても注目されている。実験で得たフラッシュグラフェンをポリウレタンフォームに0.1%添加するだけで、引張強度が34%増し、低周波ノイズの吸収が25%増加するなど、Ford技術者たちが期待する以上の結果を得た。

さらに、このプロセスで使用するエネルギーや水の量、排出される温室効果ガスは、ほかのグラフェン製造法と比べて大幅に少ない。プロセスの途中で得られるワックスやオイルもリサイクル可能で、フラッシュグラフェン添加プラスチックは再びグラフェンに戻せる。循環型リサイクルの良い例だと、研究チームは考えている。

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