印刷によるシリコンゲルマニウム半導体の作製に成功――高効率多接合太陽電池の低コスト化に寄与 名大ら

本研究におけるシリコンゲルマニウム半導体膜の製造プロセス

名古屋大学大学院工学研究科と大阪大学大学院工学研究科、東北大学金属材料研究所、奈良先端科学技術大学院大学の共同研究チームは2022年9月9日、印刷によるシリコンゲルマニウム半導体の作製に成功したと発表した。高効率多接合太陽電池の低コスト化に寄与することが期待される。

複数の化合物半導体薄膜太陽電池を積層する多接合太陽電池は、エネルギー変換効率を30%超とすることが可能だが、製造コストが高く、実用化における障壁となっている。

特に、化合物半導体薄膜のエピタキシャル成長用の半導体基板として用いられるゲルマニウム基板が製造コストの50%以上を占めているため、安価な材料での代替が求められている。

そこで、同研究チームは今回、シリコンゲルマニウム膜を安価なシリコン基板上に低コストで作製する技術開発に取り組み、ゲルマニウム基板の代替を図ることとした。東洋アルミニウムが製造するアルミニウムとゲルマニウムの合金を含んだペーストをシリコン基板上に印刷し、非真空下で数分程度熱処理を施している。

熱処理によりシリコン基板の表面とペーストが溶解し、アルミニウムーゲルマニウムーシリコンを成分とする溶液が生じる。温度が降下する過程において過飽和状態が形成されると、シリコンゲルマニウム膜がシリコン基板上にエピタキシャル成長する。

化学処理によって表面に残留したペーストを取り除くことで、シリコン基板上に成長したシリコンゲルマニウム半導体の膜を得られる。冒頭の画像は、一連の製造プロセスを表したものだ。

熱処理後には、シリコン基板上に厚さ10μm超の膜が連続的に形成された。アルミニウムとゲルマニウムを別々に混ぜて作製した混合ペーストでは、昇温時のペーストの溶融が不均一になり残留ペーストの化学処理が難しくなるが、今回の合金ペーストではそのような現象も生じていない。

試料の電子顕微鏡写真
(左)ペーストを印刷した後の様子
(右)熱処理後に残留ペーストを除去した後の様子

また、X線回折装置を用いて試料の逆格子空間マップ測定(下図)を実施した。右上がシリコン基板からの強い回折を示しており、左下に向かって連続的にX線が幅広く分布していることが分かる。

X線逆格子空間のマップ測定

シリコンから左下に向かう直線は、シリコン基板上の膜が歪まずにエピタキシャル成長した場合にX線が観測される位置を示している。同直線上に連続的にX線が観測されたことから、結晶の格子定数が連続的に変化していることが予測される。他の測定も合わせて実施したところ、シリコン基板から表面に向かって徐々にゲルマニウムの量が増加していることが判明した。

このような組成傾斜は、結晶中の原子の乱れを抑える効果を有する。最表面でのゲルマニウム組成は約90%となっており、化合物半導体のエピタキシャル成長用基板としてゲルマニウムと同レベルの機能を有するものとみられる。

今後は、大面積化や化合物半導体薄膜成長などに向けたさらなる研究開発が期待される。

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