大阪大学は2018年5月1日、カーボンナノチューブを綺麗に敷き詰めて光を鏡で閉じ込めることで、逆時空間における光と電子の接触や反発を観測したと発表した。この観測を発展させることで、ノイズの影響を受けない光の粒を制御する技術の開発が可能となり、量子コンピューターなどの実用化に不可避な、ノイズ問題の新たな解決法につながるという。
物理学では、通常目にするのとは逆の時空間で物理現象を考えて観測することがよく行われる。例えば、光の色と、波としての光の時間的な振動の周期は対応する。太陽の光は赤色や青色などの様々な色の光を含んでおり、プリズムなどで色分けすることによって何色(どの周期)の光が多く含まれているのかが分かる。このように、振動する光を時間の代わりに周期(色)で特徴付けることが、逆時間で光を考えることに対応する。また、周期(色)ごとに光を分けて強さを測定することが、逆時間で光を観測することに対応する。
ここ数年、光と電子の逆時間上での接触と反発が注目を集めている。逆時間での接触は、光と電子がばらばらに振動することに対応する。一方、逆時間での反発は、それらが一体となって振動することに対応する。
しかし、光や電子の振動は非常に速いため、実際に目にするのは難しい。そのため物理学の研究では、プリズムなどで色分けして逆時間上での接触と反発を観測する。特に、接触と反発が切り替わる特異点と呼ばれる状況で見られる、ユニークな光の挙動が注目されている。しかし、接触と反発の切り替わりを観測するために、従来は別の光を照射するなどの工夫が必要だった。
今回、米ライス大学の河野教授らの実験グループは、カーボンナノチューブと呼ばれる微小な炭素の筒の方向を揃えて綺麗に敷き詰めた1枚の膜を作製。その両面に光を反射させる鏡を取り付けた。資料を回転させ、プリズムのようなもので光を色分けしながら、光がどれだけこの試料を透過するのかを測定した。
その結果、逆時間と2次元の逆空間で光とカーボンナノチューブ中の電子が接触し反発する様子を平易な実験装置で捉えることに成功した。ただし、実際は光が鏡の外に漏れ出るため、実験結果だけでは本当に接触しているのか不明瞭だった。
同大学の馬場招聘教員は光の漏れを考慮した上で理論解析することで、光と電子が確かに接触していることを確認。その解析を基にして、河野教授らのグループと馬場招聘教員は、実験結果から光と電子の接触や反発の様子を導き出した。
また、同研究で作製した試料は光と電子が逆時空間で非常に強く反発する。つまり、光と電子が非常に強く一体化するという特徴がある。光と電子とが非常に強く一体化することで、ノイズの影響を受けない光子を作り出せることが知られている。
このため、光と電子の接触(独立化)と反発(一体化)を容易に変化させられる同研究の試料と方法を発展させていくことで、ノイズの影響を受けない光子を作り出すことや光子を自在に制御できる技術を開発できる可能性があるという。そしてこのことが、量子コンピューターなどの実用化に不可避なノイズ問題の新たな解決法につながるとしている。