最速3Dプリンターより10倍速い――スタンフォード大の最新3Dプリント技術「iCLIP」

Image credit: William Pan

スタンフォード大学の研究チームが、現在実用化されている最速の高精度3Dプリンターよりも5~10倍速く造形でき、1つの造形物体に対して多種類の樹脂を用いることができる3Dプリンティング技術「iCLIP」を開発した。2015年に研究チームが発明した連続液体界面製造法「CLIP」を改良したもので、下部の液体樹脂プールから造形に必要な樹脂を吸引するだけでなく、上昇するプラットフォームに設置したシリンジから加圧した液体樹脂を積極的に供給することで、造形速度を大幅に高めている。複数のシリンジを用意すれば、1つの造形物に対して異なる樹脂を使うこともできる。研究成果が、2022年9月28日の『Science Advances』誌に公開されている。

3Dプリンティング技術の進歩は著しく、デザイナーや技術者は簡単に造形プロセスをカスタマイズして、さまざまなスケールで複雑な形状の物体を造形し、伝統的な製作技術では不可能な構造を製作できるようになった。だが、光造形法による造形プロセスは一般的に遅く、複数の樹脂が使えないといった問題がある。

研究チームの化学工学科教授Joseph DeSimone氏は、映画「ターミネーター2」の1シーンにヒントを得て、2015年にUV照射による光硬化を利用し、液体樹脂プールから連続的に造形物を引上げる手法を開発した。この連続液体界面製造法CLIPでは、形状表面の液体樹脂が、プール底面にある窓を通して投影されるUV画像によって正確な形状に光硬化されると同時に、硬化した部分が上昇するに従って液体樹脂が自動的に充填されるため、スムースで連続的なプリンティングが可能だ。

樹脂プールの底面と露光窓の間には酸素透過メンブレンがあり、プール底面が硬化してしまうのを防いで樹脂が液体のまま維持される「dead zone」を形成し、連続的な樹脂供給による造形を実現している。このCLIPは、従来の3Dプリンティングを遥かに超える造形速度を達成でき、特許化もされている。

だが、研究チームは「CLIPにおける樹脂の流れは、造形物体を上方に引き上げただけ液体樹脂が吸引されるという、とても受動的なプロセス」と考え、CLIPを更に改良することにチャレンジした。iCLIPと呼ぶ新技術では、造形物体を上方に引上げるプラットフォームにシリンジを設置し、シリンジの先に導管を通して加圧された液体樹脂を上方から積極的に注入する。導管は造形物の完成後に除去することもできるが、人の体内にある血管のように造形物中に埋め込んだままにすることもできる。

iCLIPでは、現在実用化されている最速の高精度3Dプリンターよりも造形速度を5~10倍高めるとともに、優れた機械的または電気的性質を持つ高粘性樹脂や複合材料系樹脂を使うことができるようになる。また、多数のシリンジと導管を用意することにより、特性や色彩の異なる多数の樹脂を複合的に注入することが可能になる。研究チームは現在、造形物体における樹脂供給網を最適化するソフトウェアの構築について検討しており、各樹脂間の境界を正確に制御でき、プリンティング過程を更に高速化できるようにしたいと考えている。

関連リンク

New 3D printing method designed by Stanford engineers promises faster printing with multiple materials

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