CO2排出ゼロの製鉄を目指して――スタートアップのElectra、鉄鋼大手Nucorと提携

CO2排出ゼロの湿式電解精錬を目指すアメリカのスタートアップElectraが2022年12月8日、低品位鉄鉱石と再生可能電力を用いたゼロカーボン鉄精錬技術に関して、アメリカ最大の鉄鋼メーカーNucor Corporationと提携したと発表した。Electraは、コークスを大量に用いる従来の高炉を利用せず、CO2を排出しない湿式電解精錬によって鉄鉱石を還元する技術の開発を進めており、同じく高炉を使用せずに電気炉で鋼を製造して世界11位の粗鋼生産量を誇るNucorの資本参加を得て、開発を加速する狙いがある。

鉄鋼製品は何世紀にもわたり、鉄鉱石をコークスを使って熱処理、還元して鉄を取り出す高炉によって製造されてきた。このプロセスでは、鉄鋼製品1トンあたり約2トンのCO2を排出し、毎年世界中の10%に相当する37億トンものCO2を排出している。そのため、水素を使ったサステナブルな鉄鋼石還元技術などが世界的に検討され、日本においても鉄鋼関連4社によるCO2排出削減技術開発プロジェクト「COURSE50」が推進されている。

2020年に設立されたElectraは、銅精錬で実用化している湿式電解精錬を鉄の精錬に適用する技術開発を進めている。マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏らが支援しており、2021年10月には約123億円の資金を調達している。

鉄鉱石は電解液への溶解が遅いうえ、電解液における安定性に欠けるなどの要因で、鉄分を効率的に抽出するのが難しい。同社は、リン(P)やシリカ(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)などの不純物が多く、通常は製鉄には使用されない低品位鉄鉱石を用い、これを電解液に溶解して鉄分を効率的に抽出する新手法を考案した。高炉が約1600℃で精錬するのに対し、60℃という低温での精錬が可能で、需要変動に応じて間欠的に操業でき、安価な再生可能電力を選択的に使用できる特徴がある。

同社は、高炉のようにコークスを使用しないことから地球温暖化対策に資するとともに、安価な低品位鉄鉱石を用いることで原料コストを低減し、更に安価な再生可能電力を活用できる低温プロセスで、設備や操業コストの観点でも優位だ、と説明している。

一方のNucorは、1980年代にそれまで世界の鉄鋼業界に君臨してきたUSスチールなどの米製鉄大手が、日本やドイツの鉄鋼メーカーに対して競争力を失う過程で、高炉ではなくスクラップを用いた電炉製鋼法で大規模高グレード化をはかる新しいビジネスモデルを打ち出した。以後50年以上にわたって成長を続け、今では日本第2位のJFEスチールにほぼ並ぶ生産量を誇り、コークスを用いない世界で最もクリーンな鉄鋼メーカーを自負している。

同社は、温室効果ガス排出強度(GHG Intensity)を2030年までに35%低減する目標を掲げ、調達原材料のCO2排出も考慮する「スコープ3」規準も視野に入れ、「Electraのゼロカーボン製鋼原料は、電炉における理想的な鉄原料」として、資本提携に際し原料担当副社長をElectraに派遣。同社のゼロカーボン製鋼原料の将来的な採用を計画している。

関連情報

Electra Partners with Nucor to Usher in a New Era of Green Steelmaking | Business Wire

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る