ハイブリッドかご形巻線を考案し、高温超伝導モータの室温運転に成功 京都大学ら

京都大学は2023年3月7日、同大学大学院工学研究科がイムラ・ジャパン、三菱重工業と共同で、高温超伝導誘導同期モータ(High Temperature Superconductor Induction/Synchronous Machine)を対象に、同モータの巻線を高温超伝導体と常伝導体のハイブリッド構造にすることで、温度上昇に伴って室温になっても出力を低下させた上で連続駆動することに成功したと発表した。高温超伝導モータの実用化に道筋が示されたことになる。

超伝導材料は、大きな省エネ効果や低炭素効果が期待されている。極めて大きな電流を抵抗0で流せることに加え、高い磁界を発生させることができる超伝導材料は、回転機の効率を大きく改善し、かつ小形、軽量、コンパクトにできるが、一般的な超伝導回転機は、常に-200℃程度以下に冷却しておく必要がある。

もしも冷却装置が故障して温度が上昇すると、超伝導状態ではなくなり、抵抗発生に伴い、爆発や焼損などの深刻な問題が発生する危険性があることから、実用化の大きな課題になっていた。そこで、研究グループは、HTS-ISMを対象に課題の解決に取り組んできた。

世界的に最も汎用されている、かご形誘導モータと同様の構造を有するHTS-ISMは、他の超伝導モータに比べ、単純な構造かつ低コストという特長を持つ。今回、かご形と呼ばれる回転子巻線に、高温超伝導体/常伝導体を並列化したハイブリッド構造(以下、ハイブリッドかご形巻線)を考案した。

ハイブリッドかご形巻線に流れる電流は、各々導体の電気抵抗の逆数に比例する。高温超伝導体が超伝導状態のときには電気抵抗が0であることから、ある限界値までは損失のないISのみが流れる。一方で、もしハイブリッドかご形巻線の温度が上昇し、超伝導状態でなくなった場合、高温超伝導体にも有限の抵抗が発生し、かつその抵抗値は常伝導体の値よりも大きくなる。

高温超伝導体が超伝導状態を維持できなくなると、ほとんどの電流が常伝導体を流れることになる。ある程度以上の電流が、超伝導状態にない高温超伝導体に流れると焼損するが、ハイブリッドかご形巻線の場合、ほとんどの電流が常伝導体に流れるため、焼損のリスクを回避できる。

こうしたことから、最適にハイブリッド巻線を設計することで、高温超伝導体が抵抗0の超伝導状態では超低損失で高密度電流を流せ、超伝導状態でなくなった場合にはほとんどの電流が常伝導体に流れ、高温超伝体が焼損することなく運転し続けられる。

JST-ALCAプロジェクトとして イムラ・ジャパンと開発した50kW級HTS-ISMは、室温でも5.5kWの出力運転(時間61.5~ 67.5秒)に成功。焼損等のトラブルなく運転できた。三菱重工業と開発した6kW級機も、室温で出力1.5kW強(時間399~426秒)の連続運転に成功している。

これは、高温超伝導モータの実用化に道筋が示されたことになり、通常運転時は、高温超伝導モータの高性能性を最大限に活用し、かつ故障時にも安全/安心を保証するフェールセーフ機能を具備した信頼性の高いモータの実現につながる。

今後、開発した技術を用いた具体的なシステムの検討や、モデルベースデザインを企業プロジェクトや産官学連携プロジェクトとして進めていく。なお、一部既に開始している。最終的には、グリーンイノベーションの一端を担うモータテクノロジーの一つに成長させる。

関連情報

高温超伝導モータの室温運転に成功-輸送機器など実用化に道筋- — 京都大学 工学部・大学院工学研究科

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