カーボンニュートラルへの企業の取り組み方とは? 中小企業にも必要? 取り組み事例を紹介

カーボンニュートラルとは?

二酸化炭素(CO2)を排出しないことを脱炭素と言う一方で、カーボンニュートラルは温室効果ガスの影響を削減するために、事業活動によって排出するCO2の量と、植物などにより吸収するCO2の量を同じにすることで、実質的にCO2の排出をゼロにすることを意味します。

カーボンニュートラルが注目されている背景

カーボンニュートラルが注目されている理由は、世界中で今までに経験したことのないような熱波や干ばつなどの、地球温暖化による影響が無視できない状況に至っているためです。このような大きな気候変動は、経済的な発展のみを優先したことによる弊害だと考えられていますので、これからは地球の環境を改善するために、企業もCO2の排出を抑制する必要があるという意見が高まっています。地球温暖化により異常気象が多発することで、経済活動にも悪影響を及ぼすため、企業も無視できない事態となっているのです。

カーボンニュートラルへの日本の取り組み

2050年カーボンニュートラル宣言

カーボンニュートラルに関する日本の取り組みとしては、2020年10月26日に当時の菅総理によって宣言された、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという「2050年カーボンニュートラル宣言」が挙げられます。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

2050年カーボンニュートラル宣言をした2ヵ月後には、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。このグリーン成長戦略では、税制上の優遇制度などの具体的な支援策が定められています。

改正温対法の成立

2021年5月には、地球温暖化対策の推進に関する法律「改正地球温暖化対策推進法(通称:改正温対法)」が成立しました。1998年の京都議定書制定がきっかけとなって大枠があったものを、2021年5月のパリ協定で行われたカーボンニュートラル宣言の際に、一部改正と共に、次の3つの項目を定めたことが注目されます。

基本的理念の新設では、地球温暖化対策に関する長期的な方向性が法律上に明記され、計画/認定制度の創設では、408の自治体が積極的に再生可能エネルギーを活用する事業に関与して推進するための制度を創設、デジタル化/オープンデータ化では、一定以上の事業者が排出量を報告する制度についてはデジタル化を利用するとしています。

改正温対法が成立したことで、日本もカーボンニュートラルの実現に向けて大きく舵を切ったと言えるでしょう。

地域におけるエネルギー事業

国としてカーボンニュートラルに取り組むだけでなく、自治体が主導するエネルギー関連の事業もあります。東京都や京都府京都市などの262の自治体では、「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しました。

より具体的な内容としては、岡⼭県真庭市のバイオマスの活用の推進があります。森林の切り捨て間伐材や製材所の製材端材などを、価値を付けて収集し、収集した⽊材をチップ化して、バイオマス発電⽤燃料として使用して発電するものです。

福岡県みやま市では、家庭や事業による一般廃棄物などを、バイオマスセンターで1⽇に合計130トン程度受け入れて、メタン発酵やガス発電などを行い、電力と温水を施設で利用する仕組みを確立しています。

カーボンニュートラルに向けた海外の流れ

カーボンプライシングの流れ

カーボンプライシングは、炭素の排出に価格付けをする仕組みで、明示的カーボンプライシングと暗示的炭素価格があります。明示的カーボンプライシングは排出する炭素に価格付けを行い、暗示的炭素価格はエネルギー消費量に課税をして、温室効果ガス排出量に価格を課します。

ESG投資の流れ

ESG投資とは、企業の環境(Environment)/社会(Social)/企業統治(Governance)に関する点に注目して、投資対象を評価する方法です。業績だけではなく、こうした点に配慮していないと、今後は投資先として良い評価を受けられずに株価に悪影響を与えたり、必要な資金を調達できなくなる可能性があります。

中小企業もカーボンニュートラルに取り組むことが求められる?

地域経済の変化

カーボンニュートラルは、国や大企業だけが取り組む問題ではありません。地域企業も、カーボンニュートラルを意識する大企業やグローバル企業と取引する際には、価格や品質だけではなく、サプライチェーンを通じた対応を要請されることになるでしょう。消費者も環境問題に関心を強めつつありますから、たとえ規模の小さな地域企業でも、カーボンニュートラルに取り組まない企業に対しては、疑問を感じるようになって、売上に影響が出ることも予想されます。

環境の変化

これからの企業活動には、企業規模の大小に関わらず、カーボンニュートラルに取り組む姿勢が必要です。日本国内でも、石油や石炭などの化石燃料の割合を減らして、再生可能エネルギーの比率を高めようとしています。消費者も、リデュース/リユース/リサイクルの3Rに対する関心を高めているとする環境省の調査があり、環境への負荷が小さく、社会に配慮した製品やサービスを選択する動きがあります。今後さらに、この傾向が強まる可能性が高いことに注意しなくてはなりません。

企業がカーボンニュートラルに取り組むことのメリット

エネルギーコストの削減

カーボンニュートラルに取り組むことで、エネルギーコストの削減が期待できます。企業活動において、エネルギーは欠かせない要素なので、どの企業にとっても大きなメリットです。今まで使用していたエネルギーの割合を減らして、太陽光発電などを導入すれば、導入の費用はかかるものの、長期的な視野に立てばコスト削減の効果があります。自家発電による再生可能エネルギーを利用すれば、エネルギーコストの変動に悩まされることも少なくなるでしょう。

企業イメージの向上

企業のイメージを向上させるのは大変です。特に一般消費者向けの商品やサービスを取り扱っていない場合は、その企業の存在すら知らない人が多いでしょう。しかし、世界的に注目を集めるカーボンニュートラルに取り組めば、企業イメージを向上させるのに役立ちます。カーボンニュートラルと関連付けて、その企業に好意的な思いを抱くようになってもらえれば、直接商品の購入やサービスの利用につながらなくても、優秀な人材が集まるなどのメリットがあります。

収益の向上

削減した温室効果ガスは、J-クレジット制度を利用することで、他の企業へ販売できます。J-クレジット制度は、サイトを使った売買のマッチングができるので便利です。他にも、太陽光で自家発電を行って、使い切れなかった電力を売ることもできます。このような収益源ができれば、本業の調子が悪い時には、大いに助かるでしょう。カーボンニュートラルへの取り組みを拡大して、より収益を上げられる仕組みを構築することも可能です。

ESG投資の条件を満たす

環境(Environment)/社会(Social)/企業統治(Governance)の3つを重視するESG投資は、今後さらに重要性を増していきます。既にカーボンニュートラルに積極的でない企業は、投資対象から外すという動きが強まっており、思うように資金調達できない企業も出てきています。投資家や金融機関からの評価を高めるには、どのような基準を用いてカーボンニュートラルに対する取り組みを行っているのかを、理解しておくようにしましょう。販売する商品やサービスだけで評価される時代ではなくなっています。

カーボンニュートラル実現に向けて企業が取り組む方法

省エネルギーの実現

カーボンニュートラルに取り組む方法は複数ありますが、最初に行うべきことは省エネルギーの実践です。照明をLEDに交換すれば使用する電力を減らすことができて、電気料金の節約にも繋がります。他にも、社内の業務で効率化できそうなことを見付けて継続的に改善すれば、確実に省エネの効果が目に見えるようになって、社員の意識も変わってきます。手を付けやすく効果の出やすい省エネから始めるのが、カーボンニュートラルを実践する一番良い方法です。

再生可能エネルギーの活用

事業活動をするためには、電気を使うことは避けられませんが、使用する電気を再生可能エネルギーに切り替えることで、CO2の削減に貢献できます。一般家庭にも普及している太陽光発電ならば手軽に導入することができますし、最近は太陽光発電以外にも風力/水力/バイオマスなど、いろいろな発電方法が利用可能となっています。それぞれの企業の事業内容に応じて、適切な発電方法を採用すれば、他の企業と差別化することも可能です。

ネガティブエミッション

カーボンニュートラルの取り組みには、CO2を排出しないようにするだけではなく、大気中のCO2を除去/削減するネガティブエミッションと呼ばれる方法もあります。ネガティブエミッションには、CO2を回収して貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と、CO2を回収して利用するCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)があり、他にも回収して貯留したCO2とバイオマスエネルギーを応用するBECCS(BioEnergy with Carbon Capture and Storage)も存在します。カーボンニュートラルに関連する技術は、日進月歩の状況なので、今後さらに効果的な方法が普及する可能性があります。

カーボンオフセット

各企業が十分な量のCO2を削減することが理想ですが、事業内容や状況によっては、思うようにCO2が削減できないこともあるでしょう。そのような場合には、CO2排出量に見合う分の削減活動に投資したり、環境を保護するために寄付したりすることで、埋め合わせをするカーボンオフセットの利用を検討するべきです。具体例としては、カーボンオフセットを活用した商品開発や、CO2を排出しない催物に参加するなどがあります。

カーボンニュートラルの取り組みの進め方

削減目標を設定する

企業がカーボンニュートラルに取り組む時には、まず削減目標を決めることが大切です。削減目標と聞くと、2021年4月に政府が発表した2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すことを目安に考える人も多いですが、自社の状況を良く把握した上で、現実的な目標を検討するようにしましょう。実現不可能な目標を設定してしまうと、取り組みが中途半端になってしまい、費用や労力を無駄にしてしまう可能性があります。削減目標を設定する前に、事業内容をよく考えて、環境や社会にどのように貢献できるのかを検討しなくてはなりません。

現状を把握する

カーボンニュートラルに取り組むには、自社がどれくらいCO2を排出しているかを把握する必要があります。具体的に、エネルギーの購入量や商品の製造工程でのエネルギー使用量などを確認することになりますが、その際には自社内部における通勤/出張/輸送/保管/製造/販売などだけではなく、購入先や販売先など事業活動に関する全範囲の排出量が対象となることに注意しましょう。

サプライチェーンの排出量は、直接の排出量であるScope1、エネルギー起源間接排出量のScope2、その他間接排出量となるScope3で構成されます。サプライチェーン排出量の算定方法については環境省が定めたものがあり、Webサイトには計算式なども掲載されています。

気候変動による影響を分析する

企業がカーボンニュートラルのことを考える際は、気候変動が自社に与える影響を検討する必要もあります。自然災害によって自社の資材調達が困難になったり、国の施策/支援方針などが変わる可能性もあるでしょう。このような視点を持っていないと、外部環境の変化に対応できずに、安定した事業活動をすることが難しくなってしまいます。

社内で議論する

自社を取り巻く状況を理解できたら、どのような取り組みをするのかを、社内で議論します。経営層や一部のスタッフだけで進めるのではなく、スムーズに現場に導入できるように、関係者全員を交えた議論が不可欠です。もしも、社内だけではカーボンニュートラルについてのノウハウが不足していると感じる時は、社外にもアドバイスなどを求める必要があります。

今後の課題を決める

今後のカーボンニュートラルの取り組みについては、具体的な方法や実施期間などを確認して、問題がないかどうかを考えます。カーボンニュートラルに限らず、どのような取り組みも事前の計画通りに行かないことがほとんどですから、想定される課題や対応策なども検討しておきましょう。事前に課題の洗い出しを十分にしておかないと、取り組みを始めてから慌てて対応することになり、様々な障害が発生する可能性があります。

カーボンニュートラル実現に向けた企業の取り組み事例

セコム

警備に関わる業務を行っているセコムでは、温室効果ガスを2030年度までに45%削減、2045年までには排出ゼロとすることが目標です。排出量において大きな割合を占めるオフィス関連の電力使用量を減らすために、省エネ機器の活用や太陽光発電の導入、さらに業務で使用する車両を低燃費車にするなどの取り組みを行っています。その他にも、積極的にサプライチェーンへの説明会をするなど、様々な取り組みを行っています。

花王

生活用品などを扱っている花王では、2040年にカーボンゼロ、2050年にはCO2排出量よりも吸収量が上回るカーボンネガティブを目指すという目標を設定しているそうです。このような目標を達成するための具体的な取り組み内容としては、省エネ化や高効率化/リサイクル/低炭素な原材料の使用など、多岐にわたります。輸送手段についても、CO2の排出量を少なくするために、車両を大型化するなどの工夫を導入しています。

明治ホールディングス

明治ホールディングスでは脱炭素社会に向けて、CO2排出量の少ない燃料/高効率設備の導入、太陽光/風力/バイオマスなどの再生可能エネルギーの利用、オゾン層を破壊する特定フロンの全廃などの取り組みが行われています。達成目標や実績については、年度ごとに自社拠点やバリューチェーンなどのCO2総排出量がWebページに掲載されていています。他にも、エネルギー使用量やCO2排出量実績などが開示されているので、参考になるでしょう。

三井不動産

三井不動産では、グループ全体の温室効果ガス排出量を、2030年度までに40%削減し、2050年度までにはネットゼロを目標としています。行動計画の内容は、新築/既存物件の環境性能機能の向上、物件共用部と自社利用部の電力グリーン化、安定的な再生可能エネルギーの確保、建築時のCO2排出削減などです。その他にも、保有林などの森林の活用、社内炭素価格制度の導入、国内外の環境認証の積極的な取得などに取り組んでいます。

まとめ

カーボンニュートラルが大きな注目を集めているものの、実際に企業として取り組むとなると、どうすれば良いのか迷ってしまうことも少なくないでしょう。特に中小企業の場合は、カーボンニュートラルに取り組む余裕がないと感じてしまいがちですが、対応を先送りしていると後々困難な状況に陥る可能性もありますから、可能な範囲で積極的に取り組むことが肝心です。中小企業でもカーボンニュートラルに取り組んで、評価を高めている企業がたくさんありますから、すぐに動き出すようにしましょう。

先述の通り、カーボンニュートラルを実現するには様々な技術的アプローチが存在します。特に、CO2回収・固定においては触媒反応の制御が要です。触媒そのものや触媒反応を活用した製品の開発者には多数の採用ニーズがあります。また、生産CO2削減のために最終製品メーカでは急ピッチで材料代替を推進する必要があり、バイオ由来材料やリサイクル材料、加工時のCO2排出を削減できる材料の代替検討が活発です。そのため、従来ほとんどニーズがなかった、材料分析や成形技術、材料力学に基づいた機械設計技術を持つ技術者へのニーズが高まっています。

さらに、燃料電池や太陽電池のような技術の社会実装には、新たなジェネレーションシステム構築も必須です。従ってプラント設計、プロセス制御、エネルギーマネジメントなどの技術を保有する方にも従来なかった新たな転職先が急増しています。各社「待った無し」で自社にない技術者を集めていますので、得意な技術を活かして、世界初の実績を生み出す絶好のチャンスです。

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記事監修


梅津 太一(メイテックネクスト CA部長)

中小から大手メーカーに対する採用コンサルティングを4年、その後はキャリアアドバイザーとして11年、延べ4000名以上のエンジニアのキャリアカウンセリング経験を持ちます。得意としていることは「求職者の強みの抽出」と「要素技術軸、工程軸(方法論)でのマッチング」です。昨今のマーケットは先が読みくいが故、自身が今どのような経験を積むべきか、また、どの分野(強み・弱み)に負荷をかけ成長を促すかを求職者と一緒に考えていきたいと思います。


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