- 2023-12-14
- 化学・素材系, 技術ニュース, 海外ニュース
- Nature Chemistry1, Sakari Lepikko, アールト大学, シリコン, セルフクリーニング, マイクロ流体光学, 学術, 水, 自己組織化単分子膜(SAM)
私達の身の回りでは、水と固体表面は相互作用しており、調理や輸送、光学などさまざまな場面で影響を与えている。水がどのように固体表面から滑り落ちるのか、またはどのように表面に付着したままでいるのかを解明できれば、家庭用技術や産業技術の改善に役立つだろう。
フィンランドのアールト大学の研究チームは、これまでにない撥水性を備えた表面を作ることができるメカニズムを開発した。この発見は、固体表面と水との摩擦に関する新しい考え方であり、水滴が分子レベルでどのように挙動するのかについて新たな視点を与えるものだ。研究成果は、『Nature Chemistry1』誌に2023年10月23日付で公開されている。
今回の発見の核となるのは、液滴をはじく液体のような表面で、従来のアプローチと比較して多くの技術的利点をもたらす。研究チームは、特別に設計されたリアクターを用いて、ベースとなるシリコン上に自己組織化単分子膜(SAM)を作成した。SAMは共有結合でシリコン基板に固定されているが、分子層は可動性が高いため、固体表面に液体のような性質を与える。この液体のような表面が、水滴と固体表面の間で潤滑剤のように機能するのだ。
論文の筆頭著者であるSakari Lepikko博士研究員は、「私達の研究は、分子レベルでの異種表面を、ナノメートルレベルで作成した初めての例です」と述べている。
研究チームは、リアクターの温度や水分量を調節して、SAMがシリコンを覆う被覆率を微調整して実験をした。その結果、SAMの被覆率が高いかまたは低い場合に、水が滑りやすい表面になることがわかった。シリコンを覆うSAMが少ない状態で水が滑りやすくなるのは、予想外のことだった。
観察の結果、SAMの被覆率が低いと水はSAM分子間を自由に流動し、表面を滑り落ちることが明らかとなった。一方、SAM被覆率が高い状態では、水はSAMの上から直接簡単に滑り落ちた。水が表面にとどまるのは、被覆率が中間の場合だけなのだ。
今回の発見は、水滴をはじく必要のある日常生活から工業技術まであらゆる局面での応用が期待される。例えば、配管の熱伝導、氷結防止、曇り止めなどが考えられる。また微小な液滴をスムーズに移動させることが必要なマイクロ流体光学やセルフクリーニングの表面を作るのにも役立つだろう。