- 2024-6-14
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- Nature Sustainability, PCB, PCB材料(FR-4), vPCB(ビトリマー・プリント基板), ガラス繊維, ビトリマー, リサイクル, ワシントン大学, 学術, 硬質プラスチック(エポキシ樹脂), 電子廃棄物
米ワシントン大学は2024年4月26日、従来の材料と同等の強度と電気的特性を持ち、材料の損失を最小限に抑えつつ繰り返しリサイクルできる「vPCB」(ビトリマー・プリント基板)を開発したと発表した。
同大学の研究者らは、持続可能なポリマーであるビトリマーの一種を、損傷させずゼリー状に変化させる溶剤を使用。再利用やリサイクルのために固体成分を取り出すことに成功した。ビトリマーをベースに作製したvPCBは、ビトリマーの98%、ガラス繊維の100%、使用した溶剤の91%をリサイクルできるという。
国連によれば、世界の電子廃棄物は2010年から2022年で82%増加した。しかし、リサイクルされた電子廃棄物は、4分の1以下だ。内訳を見ると、質量と体積のどちらにおいてもプリント基板(PCB)が大きな割合を占め、PCBをリサイクルする大規模なシステムがないことが、リサイクル率が低い要因の1つだと言われている。
PCBにはチップやトランジスターなどの電子部品が実装/固定され、相互に接続している。耐火性/耐薬品性に優れて非常に頑丈な反面、リサイクルに向いていない。例えば、PCBは薄いガラス繊維を硬質プラスチック(エポキシ樹脂)でラミネートしていて、プラスチックはガラスから簡単に分離できない。廃棄されたPCBを埋め立てれば、化学物質が環境に浸透する恐れがある。貴金属を取り出すためにPCBを焼却する場合、適切な対策をせずに焼却すれば、人体に有毒なガスを発生させてしまう。
ビトリマーは2011年に開発された持続可能性の高い架橋樹脂だ。ポリマー間の架橋状態を維持しながら、一定の温度以上の熱といった特定条件に応答し、分子を再配列して新しい結合を形成できる。ビトリマーを使ってPCBを作製すれば、例えば曲がったPCBをまっすぐにするといった修復が可能で、リサイクルしやすくなる。
vPCBを作製するプロセスは、PCBとはわずかに異なる。従来の半硬化PCB層は、熱プレスでラミネートする前に、低温で乾燥した条件下で一定期間保管する。ビトリマーは新しい結合を形成できるため、完全硬化したvPCB層をラミネートする。リサイクルの際は、比較的沸点の低い有機溶剤に浸せば膨張するため、ガラスシートや電子部品を傷つけずに取り出せるようになるという。
研究チームは、vPCBの強度や電気的特性が、最も一般的なPCB材料(FR-4)に匹敵することをテストで確認した。環境への影響を分析したところ、リサイクルしたvPCBは従来のPCBと比較して、地球温暖化係数を48%、発がん性物質の排出を81%削減できるという。
この研究成果は、『Nature Sustainability』2024年4月26日号に掲載された。