紙すき操作によるナノシートの高速・大面積成膜法を開発 名古屋大学

名古屋大学は2024年7月16日、同大学未来材料・システム研究所の研究グループが、酸化物、酸化グラフェン、窒化ホウ素などの二次元物質(ナノシート)の高速・大面積成膜法(自発集積転写法)の開発に成功したと発表した。水面へのインク滴下と基板転写のみで、ウェハーサイズ、A4サイズの成膜が1分程度で完了する。

グラフェンや無機ナノシートなどに代表される二次元物質(ナノシート)の優れた機能を最大限に引き出してデバイス化するには、さまざまな基板表面にナノシートを稠密配列し、薄膜を作製することが重要となる。薄膜製造として、化学気相堆積(CVD)法、ラングミュア・ブロジェット(LB)法などの適用が検討されてきたが、多くの課題があるため、簡便かつ短時間で大面積ナノシート膜を実現する新プロセスの開発が求められていた。

研究グループは、水面で流氷が並ぶようにナノシートが自発的に並び、15秒程度でナノシート緻密膜が形成するユニークな現象(自発集積現象)を発見し、利用した。基板に形成したナノシート緻密膜を転写することで、ナノシートの高速・大面積成膜を実現している。

インクには、ナノシートのコロイド水溶液(濃度:0.36wt.%)とエタノールの1:1の混合溶液の利用が好適で、エタノールの蒸発の際、ナノシートの対流がアルコールの濃度差で生じ、効率的にナノシートが配列制御される。成膜は水面へのインク滴下と基板転写のみで、1分程度で完了する。

純水を入れたビーカーにナノシートのインクを数滴滴下すると、ナノシートが容器の外側から自発的に並び、ナノシート緻密膜が形成される。金魚すくい、紙すき操作で、このように形成したナノシート緻密膜を基板に転写すると、ウエハーサイズ、A4サイズのナノシート膜を成膜できる。膜質評価では、ナノシートがジグソーパズルのように緻密に配列しており、高品質なナノシート膜の大面積成膜が実現していた。

ナノシートの高速・大面積成膜法(自発集積転写法)
(a)成膜操作のイメージ図。(b)酸化チタンナノシートの成膜操作。(c)金魚すくい転写のイメージ図。(d)金魚すくい法による酸化チタンナノシート単層膜の転写。(e)2インチSi基板上に成膜したナノシート単層膜の光学写真と(d)共焦点レーザー顕微鏡と原子間力顕微鏡(挿入図)による膜質評価。ナノシートがジグソーパズルのように緻密に配列していることが分かる。

紙すき法によるナノシート膜の転写
(a)市販の料理用容器を利用したナノシート膜の成膜。(b)成膜前のPET基板と(c)酸化グラフェン(GO)ナノシート膜の写真。(d)共焦点レーザー顕微鏡による膜質評価。ナノシートがジグソーパズルのように緻密に配列していることが分かる。

開発した技術は、酸化物、酸化グラフェン、窒化ホウ素などのさまざまな組成、構造のナノシートに適用できる。また、容器のサイズを変えると、大面積ナノシート膜を作製できる。

水面へのインク滴下と基板転写の一連の操作で、ナノシート単層膜(膜厚1~2nm)を1分程度で成膜できる。この成膜操作を連続して繰り返すと、単層膜を重ねた多層膜を作製できる。作製した多層膜は、透明導電膜、誘電体膜、光触媒膜、腐食防止膜、日射遮蔽膜など、各種機能性薄膜として優れた機能を発揮する。また、作製したナノシート多層膜は、きわめて安定で、多層膜をNaCl水溶液に浸漬し、基板から剥離することで、ナノシート自立膜も作製できる。

酸化チタンナノシート自立膜
(a)100層積層自立膜の写真と(b)走査型電子顕微鏡像。(c)500層積層自立膜の写真。(d) 500層積層自立膜をアルミナ多孔質基板に転写した膜。
作製したナノシート自立膜は、高い機械的強度と柔軟性を具備しており、さまざまな基板へ2次転写し、デバイス作製も可能となる。

開発した手法は、高品質なナノシート膜の大面積成膜、自立膜が、専門的な知識、技術なしで、簡便、短時間、少量の溶液で実現できる。ナノシートの工業的な薄膜製作法、ナノコーティング法として重要な技術への発展や、環境に優しいエコプロセスの重要な技術になることが期待される。

関連情報

金魚すくい!?紙すき!?で実現 ~大面積ナノシート膜の高速成膜法を開発~ – 名古屋大学研究成果情報

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