準結晶の中に、無限に大きくすることが可能なハミルトン閉路を構築――炭素回収/貯蔵技術への応用も

image credit:University of Bristol

英ブリストル大学の理論物理学者が率いる研究グループは、準結晶として知られる不規則構造の中に、無限に大きくできるハミルトン閉路を構築した。これは走査型トンネル顕微鏡(STM)の性能向上や、効率的な吸着材としての応用も期待できるものだ。研究成果は2024年7月10日付で『Physical Review X』に掲載された。

準結晶の原子は、塩や石英などの結晶の原子とは異なる配列をしており、準結晶は6次元に存在する結晶のスライスとして数学的に記述できる。研究グループは、準結晶として知られるエキゾチック物質を特徴づける不規則構造において、無限に大きくできるハミルトン閉路を構築した。そのハミルトン閉路は、ある準結晶の表面上にあるすべての原子を一度だけ正確に通っている。その結果形成される経路は独特で複雑な迷路となり、「フラクタル」と呼ばれる数学的対象によって表される。

この経路には、原子レベルの「鉛筆」ですべての隣接する原子を直線が交差することなく一筆書きできるという特異な性質がある。これは、個々の原子をイメージングできるSTMに応用できるとされる。最先端のSTMであってもイメージングに1カ月かかることもあるため、STMのチップがたどるべき最速の経路を形成するハミルトン閉路は有用だ。

他にも、不可能に思える問題を準結晶によって扱いやすくできる場合がある。例えば、分子が結晶の表面に付着する「吸着」は重要な産業プロセスだが、現在は結晶のみが使われている。しかし、表面の原子でハミルトン閉路を構築している場合、適切な大きさの柔軟な分子はこの原子の経路に沿って位置すると、完璧な効率で収まるという。研究結果では、準結晶が非常に効率的な吸着材になり得ることを示しており、その用途の1つとして、二酸化炭素分子が大気中に放出されるのを防ぐ二酸化炭素回収/貯留(CCS)が考えられる。

また、準結晶はその効率的な吸着性により、化学反応のエネルギーを下げて工業効率を高める触媒の候補となる可能性もある。例えば、農業用アンモニア肥料の生産に使用されるハーバー触媒反応では吸着が重要なステップであり、この研究を応用できる可能性がある。

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