「スピノーダル分解」を利用した金属材料の強化技術を開発――高強度と高延性を両立

韓国の浦項工科大学校(POSTECH)は2024年7月29日、同大学とアメリカのノースウェスタン大学の研究チームが、多種元素が主要元素として混合されている「高または中エントロピー合金(H/MEA)」において、合金成分の組成ゆらぎが自発的に生じる「スピノーダル分解(Spinodal Decomposition)」により、高延性を維持したまま高強度化することに成功したと発表した。シーソーのように互いに相反関係にある金属材料の強度と伸びを、スピノーダル分解により同時に向上させるものだ。

3種類以上の元素が主要元素として、ほぼ同程度に混合され混合エントロピーを高めた多種主要元素型のH/MEAが、新しいカテゴリーの金属として関心を集めている。多元素の固溶強化を主要な強化メカニズムとしているので、微小亀裂などが形成しにくく、高強度と高い延性や靭性が得られるとともに、耐熱性や耐摩耗性、耐食性などを発現すると期待されている。しかし、H/MEAにおいてさらなる高強度化を図る場合、合金中に微細な粒子である析出物の導入が有効な手法として検討されているが、析出物の結晶構造は母材金属と異なり、伸びを低下させてしまう欠点がある。強度と伸びのトレードオフ関係は、金属材料全般に共通した現象であり、材料研究者の永遠の課題になってきたが、H/MEAにおいても両特性を同時に向上させることが難しくなっている。

研究チームはこの問題を解決するために、多種主要元素型H/MEAにおいて有効と思われるスピノーダル分解を活用することに着目した。合金成分がランダムに固溶する合金においても、固溶状態を維持したまま成分濃度が異なる2つの相に分離した方が、全体の自由エネルギーを減少させる場合があり、合金成分の拡散が活発になる高温において、この相分離が自発的に発生するスピノーダル分解が知られている。成分濃度が異なる2つの相は、ナノスケールで周期的に生成することから転位運動を抑制するスピノーダル強化を発現する一方、依然として同じ結晶構造を有しコヒーレントな界面を維持するので、歪みを材料全体に効果的に分散し局所的な変形を最小化して伸びを低下させないことが期待される。

Feベースの中エントロピー合金Fe-Ni-Co-Mn-Ti-Si-Cu-Alにおける実験の結果、1.1GPaの降伏強度を示し、スピノーダル分解に頼らない合金の187%に相当することを確認した。驚くべきことに、このような高い降伏強度を持ちながら、伸びについてはほぼ同等の28.5%を維持しており、強度と伸びのバランスを向上させることができ、従来の合金と比較して優れた構造的信頼性を持つことが実証された。

研究チームは、「このような高強度高延性を両立させた合金設計技術は、航空宇宙や自動車、エレクトロニクスなど様々な分野にわたる製品について、軽量化しつつ高耐久性高信頼性を確保することにより、高品質化する可能性を持っている」と期待している。

研究成果は2024年7月9日に『Nature Communication』誌にオンライン公開されている。

関連情報

Balancing the Seesaw: Simultaneously Enhancing Strength and Elongation in Metallic Materials » POSTECH

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