電子散乱法により陽子半径を高精度に測定――陽子半径問題に決着か

米国ジェファーソン研究所のPRadコラボレーションは、電子散乱によって陽子のサイズを測定する新たな手法を用いて、陽子半径の新しい値を得たと発表した。その値は0.831フェトムメートル(fm)であり、以前の電子散乱値0.88fmよりも小さく、最新のミュー粒子原子分光法の結果と一致している。この実験は、エネルギー省のトーマスジェファーソン国立加速器施設で行われた。この研究は、ノースカロライナA&T州立大学のAshot Gasparian教授が率いる共同研究グループによるもので、成果は2019年11月6日、『Nature』誌に掲載された。

2010年以前、陽子半径の最も正確な測定は、2種類の実験方法から導き出されていた。1つは電子散乱実験によるもので、電子を陽子に照射し、陽子によって散乱した電子の経路変化によって、陽子の電荷半径を決定するものだ。もう1つは原子分光測定によるもので、小さな原子核の軌道を回る時に観察される電子によるエネルギー準位間の遷移を、電子によって放出される光子の形で観察するものだ。典型的な陽子半径として、水素や重水素を使った測定では、これらの2つ方法により、陽子半径は約0.88fmとされている。

ところが、2010年に発表された最新の測定で、軌道を回る電子を、軌道がはるかに陽子に近く、陽子の電荷半径に敏感なミュー粒子に置き換えた。この方法で、水素原子の周りの軌道の電子のエネルギー準位間の遷移を測定したところ、約0.84fmと、従来より4%小さい値が得られた。これが「陽子半径問題(proton radius puzzle)」だ。

同研究グループは、2012年にジェファーソンラボに集まり、陽子の電荷半径の新しくより正確な測定を目指して、電子散乱法を改良した。そして、2016年にジェファーソンラボの実験ホールBで電子散乱データを取得した。

この共同研究では、新しい測定の精度を向上させるために3つの新しい技術が導入された。1つ目は、チューブが加速器の真空に対して開いている「ウィンドウレスターゲットシステム」で、これにより、散乱電子がほとんど妨げられることなく検出器に移動できるようにした。

2つ目は、従来の磁気分析器ではなく、ハイブリッド熱量計HyCalを使用して散乱電子を検出したことだ。さらにGEM検出器(ガス電子増幅器、gas electron multiplier)を使って電子の位置をより高い精度で検出した。両方の検出器からのデータをリアルタイムで比較することで、各イベントを電子-電子散乱または電子-陽子散乱として分類でき、実験の不確実性が大幅に減少し、精度が向上した。

3つ目の改善点は、電子ビームが水素ターゲットに衝突した場所からの角距離が極めて近い、これらの検出器の配置だった。陽子半径を得るためには角度がゼロに近い方がよい。同共同研究では、その距離を1度未満に抑えることができた。

現在、同研究グループは、この結果を陽子半径の新しい分光測定や、世界中で行われている今後の電子およびミュー粒子散乱測定と比較することを期待している。

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