産業技術総合研究所(産総研)は2024年9月27日、筑波大学と共同で二酸化炭素と水素から高効率で直接ギ酸を合成する技術を開発したと発表した。この技術を使えば、ギ酸を用いて二酸化炭素を放出しない水素貯蔵/製造システムを構築できる可能性がある。
ギ酸は、水素キャリアとして注目されている化合物で、従来は二酸化炭素と水素から、塩基性条件下で安定なギ酸塩とした後に、酸処理によってギ酸に変換していた。しかし、酸処理によって発生する熱や生成される塩の除去など、複数の工程が必要で、ギ酸の製造コストが課題となっていた。
ギ酸から水素1kgを取り出すと、理論上22kgの二酸化炭素が発生する。このため、研究グループはギ酸から得られた水素と二酸化炭素を分離し、高圧水素と液化二酸化炭素として回収する技術を開発してきた。こうした技術が確立されたのを受け、さらに回収した純度の高い液化二酸化炭素を使って、再びギ酸を合成する技術の開発を進めてきた。
今回の技術を開発するきっかけとなったのは、イリジウム触媒が存在する溶媒中で、ギ酸が水素と二酸化炭素に分解し、高圧ガスが生成する速度を測定する実験だった。研究グループは、溶媒によってその速度が大きく変化することを発見した。特にヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中では、ギ酸の分解速度が水中の場合と比べ、2分の1の速度になった。しかも、高圧ガス生成も水中では37.9MPaなのに対し、HFIP中では1.20MPaと、約32分の1の圧力しか出ないことが分かった。
一方、ギ酸の合成は、水の場合よりHFIPの場合の方が水素と二酸化炭素からの反応中間体(イリジウムヒドリド錯体)の生成速度が4倍速く、全体としてギ酸の生成速度が1.5倍以上速くなり、ギ酸の生成量も3.5倍多いことを確認した。
こうした速度の差を利用して、高効率でギ酸を生成すると同時に、生成したギ酸が分解して水素と二酸化炭素に戻る反応を抑制することが可能になり、ギ酸塩を経由しなくても効率的に直接ギ酸を合成することが可能になった。
また、産総研はギ酸からの水素を用いた発電システムを開発しており、これと組み合わせることで、システムから排出される液化二酸化炭素と、再生可能エネルギーなどから得られる水素を用いてギ酸を再生できるようになる。
今後、研究グループは2030年の社会実装に向けて、規模を大きくしながら実証実験を進めていくとともに、他の技術で合成されたギ酸も含めて、水素キャリアとして利用するシステム全体の構築を目指す。今回の技術の詳細は2024年9月24日、「Organometallics」に掲載された。