赤外線と可視光の透過率を個別に制御する、革新的なスマートウィンドウ技術を開発

人口の急増と技術の進歩に伴い、近代社会は膨大な量のエネルギーを消費するようになった。例えば、建物のエネルギー消費の約40%は、暖房、換気、エアコンによるものだ。このような膨大なエネルギー消費は環境汚染や資源枯渇を引き起こす要因のひとつであり、省エネ技術の導入は喫緊の課題だ。これに対処するため、光学特性を動的に制御する「スマートウィンドウ」が注目を集めている。

スマートウィンドウに使われている素材はさまざまなタイプがあり、どれも一長一短がある。例えば、サーモクロミック(熱変色性)ウィンドウは、赤外線の制御に優れているものの、可視光の制御は困難だ。また、液晶を使ったものは印加する電圧で可視光を調節できるが、構造上前方散乱が生じるため赤外線の制御には適していない。

イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学を中心とした研究チームは、ネマチック液晶(N-LC:Nematic Liquid Crystal)とナノポーラスマイクロ粒子(NMP:Nanoporous MicroParticles)を組み合わせた新しいアプローチとして、NMPを少量(2%)含むN-LCを使用したデバイス(NMP-LC)を開発した。NMP-LCは、透明度を迅速に変えることが可能であり、この技術をさらに発展させるために、同チームは超短パルスレーザーでパターン化された二酸化バナジウム(VO₂)薄膜を、NMP-LCと組み合わせる方法を考案した。

このパターン化されたVO₂薄膜には、2つの重要な機能がある。1つ目は液晶の配向制御で、レーザーパターニングで形成されたナノグレーティング構造が、液晶の分子を整列させる役割を果たす。2つ目は、VO₂のサーモクロミック特性が赤外線の放射を効率的に調整することで、従来の閉じた構造よりも赤外線制御を向上させることだ。

このVO₂薄膜と、電圧または温度の変化によって可視光の透過率を調整するNMP-LC層による複合システムは、液晶やNMPの使用量を最小限に抑えつつ、迅速な応答、低電圧での作動を可能にし、赤外線放射と可視光線の効率的な制御を同時に行うことで、優れたスマートウィンドウの機能を提供している。

このスマートウィンドウの特徴は、夏場には赤外線を反射して室内の温度上昇を防ぎ、冬場には赤外線を透過させて太陽光の熱を室内に取り込み、暖房効率を高められることだ。季節に応じて赤外線を制御することで冷暖房エネルギーを削減できるうえ、可視光の透過率を制御することで外からの視線を遮ったり、必要に応じて自然光を取り込むことができ、快適性とプライバシーが両立できる。

この技術は非常に有望であるが、課題として、VO₂のサーモクロミック特性を向上させるためのナノパターニングの設計を改良することや、ウィンドウの被膜物質を最適化する方法を探ることなどが求められている。この新しいスマートウィンドウ技術は、エネルギー効率を高め、快適性を向上させるだけでなく、持続可能な建築物の設計においても大きく寄与する可能性を秘めている。

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論文DOI:https://doi.org/10.1117/1.JPE.14.048001

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