- 2018-8-29
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- CERN, LHC, ヒッグス機構, ヒッグス粒子, フェルミ粒子, ボトムクォーク, 世代の起源, 東京大学, 標準理論, 高エネルギー加速器研究機構(KEK)
東京大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などの研究グループは2018年8月28日、これまで実験的に観測が困難だった「ヒッグス粒子がボトムクォーク対へ崩壊した事象」を、5σ(99.9999%)以上の確度で観測したと発表した。この観測により、「物質を構成する粒子の質量の起源」がヒッグス粒子であることが解明された。さらに、素粒子研究の大きな謎の1つ「世代の起源」が、ヒッグス粒子との結合の強さの違いで生じていることの示唆が得られた。
実験は、欧州合同原子核研究機関(CERN)が建設した、スイスのジュネーブ近郊の地下にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行われた。LHCは陽子同士を衝突させる世界最高エネルギーの円形加速器で、2009年から行われた第1期実験では、ノーベル賞の対象になった2012年のヒッグス粒子の発見や、力を伝える素粒子(W粒子やZ粒子)とヒッグス粒子の結合の測定により、「力を伝える素粒子の質量の起源」が解明された。
その後、衝突エネルギーを2倍の13TeV(テラ電子ボルト)に増強。2015年から始まった第2期実験では、ATLAS実験グループは第3世代フェルミ粒子(物質を構成する素粒子)のトップクォークやタウ粒子が、ヒッグス粒子と結合している証拠を観測している。
素粒子の標準理論では、ヒッグス粒子は約60%の確率でボトムクォーク対へと崩壊する。最も生成されやすい信号だが、バックグラウンドが多いため実験的に観測が非常に困難で、LHC-ATLAS実験計画当初は観測不可能だと考えられていた。
研究グループは、LHC第2期実験のデータ量と機械学習などの解析技術を改善することで発見感度向上に成功。2017年までのデータを解析し、「ヒッグス粒子がボトムクォーク対に崩壊した事象」を確度5.4σ(シグマ)の有意水準で初観測した。その頻度は、標準理論の枠内で予想したヒッグス粒子の場合と誤差の範囲内(20%の精度)で一致している。
第2期実験で第3世代フェルミ粒子とヒッグス粒子の相互作用が全て観測され、第3世代フェルミ粒子の質量起源はヒッグス粒子であることが解明された。力を伝える素粒子(W粒子やZ粒子)への結合も既に第1期実験で観測されており、物質を構成するフェルミ粒子と力を伝える素粒子の両方とも、同じ「ヒッグス機構」と呼ばれるメカニズムで質量を得ていることが明らかになった。
今後、研究グループは第2世代フェルミ粒子との結合観測を目指す。電子の仲間で第2世代のミュー粒子とヒッグス粒子の結合はまだ観測されておらず、その上限値は標準理論の予想の2倍程度までに迫っている。この値はタウ粒子とヒッグス粒子の結合の大きさの1/8より小さく、世代の違いによりヒッグス粒子との結合の強さが大きく違うことを表している。つまり、ヒッグス粒子が素粒子の世代を作っていることの示唆が得られ、素粒子物理学最大の謎の1つである世代の解明も期待される。
また、測定した結合の強さが1つの直線にのっているが、依然として誤差が大きい。標準理論を超える多くの物理モデルでは、ヒッグス粒子とボトムクォークの相互作用が標準理論からズレる可能性が指摘されており、現在20%程度の測定精度を向上させることで、新物理の兆候をとらえる可能性も高いという。