- 2024-7-19
- 技術ニュース, 電気・電子系
- Siウェハ基板, Si基板, スピンコート法, バッファ層, 強誘電体結晶薄膜, 東京大学, 東京大学大学院工学系研究科, 研究, 脳機能模倣素子, 製膜, 酸素欠陥量, 電気抵抗スイッチング特性
東京大学大学院工学系研究科の研究グループは2024年7月18日、バッファ層とスピンコート法を組み合わせ、大面積の強誘電体結晶薄膜をSi基板上に作製する新たな手法を発表した。
比較的低温かつ常圧で製膜できるスピンコート法を用いた強誘電体結晶薄膜の作製手法を開発している研究グループは、酸化ジルコニウムを母体材料として用いた酸化物結晶バッファ層が、ペロブスカイト型酸化物と良好な格子整合を示すことに着目。このバッファ層とスピンコート法を組み合わせ、高品質な強誘電体酸化物薄膜の成長に成功した。
Siウェハ基板上での大面積の薄膜も、この手法を用いることで容易に形成できる。さまざまなSi集積デバイスの開発で、汎用的な強誘電体結晶薄膜作製手法として応用できると期待される。
また、この手法を用い、Siウェハ基板上に作製したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の単結晶薄膜が電気抵抗スイッチング特性を示すことを見いだした。このスイッチング特性は、低電圧(2V以下)で発現する。極めて強固で、電圧の掃引を100回以上繰り返しても消失しない。一方、スパッタリング法やPLD法で作製した極めて結晶性が高く、優れた強誘電性を示す薄膜は、電気抵抗スイッチングは観測されなかった。
スパッタリング法やPLD法で作製された薄膜では、極めて結晶性が高く酸素欠陥量が極限まで抑えられており、電気抵抗スイッチングが起こらないと考えられる。また、バッファ層を用いずにスピンコート法で作製した結晶性の低い薄膜は、欠陥濃度が高く電流のリークが大きすぎるため、同じく電気抵抗スイッチングは観測されなかった。
これらからバッファ層とスピンコート法を組み合わせた手法は、電気抵抗スイッチングを引き起こすために、「ちょうど良い」酸素欠陥量を容易に導入できることがわかった。
研究の成果は、次世代 AI デバイスなど電気抵抗スイッチング特性を利用した脳機能模倣素子の開発研究に役立つことに加え、Siデバイスと融合できる汎用的な強誘電体結晶薄膜形成手法として活用されることが期待できる。