- 2023-12-27
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- Science, イッテルビウム, ウィーン工科大学(TU Wien), ショット雑音, シリコン, ライス大学, ロジウム, 奇妙な金属(Strange metal), 学術, 準粒子, 重い電子系金属(heavy fermion metals), 量子力学, 電流
量子力学において、電流は準粒子と呼ばれる量子化された電荷の集団によって伝導されるが、アメリカのライス大学の研究チームは、「奇妙な金属(Strange metal)」と呼ばれる物質群においては準粒子が存在せず、液体のように伝導する特異な電荷輸送形式を考えなければ説明できないことを、実験的に発見した。通常の金属では、準粒子の移動に関わる量子的ゆらぎに起因する回路ノイズの一種である、「ショット雑音」が測定されるが、奇妙な金属においてはショット雑音が著しく抑えられ、「奇妙に静か」なことを見出したものだ。研究成果が2023年11月23日の『Science』誌に公開されている。
過去40年間、通常の金属に見られる電気抵抗の法則では説明できない現象が認められるようになり、「奇妙な金属」と呼ばれるようになってきた。高温で突如として超伝導状態に転移する高温超伝導材料や、電子の有効質量が自由電子の質量の数百倍以上に重くなっている重い電子系金属(heavy fermion metals)などが、その例として知られている。奇妙な金属においては、通常の金属のように電流の輸送を担う準粒子が存在しないという仮説が提案されてきたが、これまでに実験的に確認した研究例はなかった。今回研究チームは、準粒子が存在する場合は、量子的ゆらぎに起因して電流にショット雑音が生じるはずであることを前提として、この仮説を実験的に検証することにチャレンジした。
研究チームは、イッテルビウム、ロジウム、シリコンが正確に1:2:2の割合で存在するYbRh2Si2結晶のナノワイヤを用いて、ショット雑音の測定を行った。この材料は、ウィーン工科大学(TU Wien)の研究チームによって、過去20年間詳細に研究されてきたもので、高度の量子もつれを有し、銀や金などの通常の金属と著しく異なって、電気抵抗が極めて異常な温度依存性を示す重い電子系金属の1つである。YbRh2Si2結晶の育成は非常に難しく、ショット雑音実験では極めて薄い完全性の高い結晶膜を成長させる必要があるが、TU Wienの研究チームが10年間の努力の後、ようやく望ましい結晶膜を得た。そして、その知見をベースにライス大学の研究チームが、髪の毛の約5000分の1の薄さの薄膜からナノワイヤを成形することに成功した。ショット雑音の測定の結果、通常の金などのナノワイヤと比較して、また理論から予測される計算値と比較して、ショット雑音が著しく抑えられていることを確認した。「恐らく、準粒子が明確に形成されてないか、またはそもそも存在しないため、電荷はもっと複雑な形式で動くことの証拠だと思われる。どのように電荷が集団的に動くことができるのか、それを説明する理論が必要だ」と、研究チームは説明する。
研究チームは、同じような挙動が他の「奇妙な金属」でも生じるか確認する必要があると語る。「奇妙な金属は、超電導銅酸化物や重い電子系金属など、ミクロ的な基本構造が異なるさまざまな物理系においても、同じように現れる。だが、極低温で電気抵抗が温度に直接比例する共通の特徴を持っており、共通する普遍的な原理を考える必要がある」としている。