宮城の伝統和紙と生分解性プラスチックから、環境に優しい複合材料を試作 東北大学

東北大学は2024年5月15日、同大学大学院環境科学研究科の研究グループが、宮城の伝統和紙と生分解性プラスチック(PBS)から環境に優しい複合材料(グリーンコンポジット)の試作に成功したと発表した。生分解性評価指針の提案や実用化、伝統和紙の用途開拓につながると期待される。

日本独自の方法で漉かれた伝統的な手漉き和紙は、繊維が長くて丈夫な楮(こうぞ)と呼ばれる植物でできている。何百年間も本、襖、窓などに使用されてきたが、手漉き和紙の生産量は減少している。

一方、マイクロプラスチック問題を解決すべく、自然環境で生分解されるプラスチックの研究開発が進められている。生分解性のPBSは、熱可塑性の半結晶性高分子で、一般的に使用されているプラスチックに匹敵する力学特性と加工性を持ち、堆肥化条件下での良好な生分解性を示す点を特徴としている。

手漉き和紙の新しい応用を目指した研究グループは、宮城の伝統和紙とPBSシートを重ねて乾燥させ、ホットプレスで成形して環境に優しい複合材料を作製した。開発したグリーンコンポジットは、手漉き和紙3層とPBSフィルム2層を重ねている。

PBS、和紙、グリーンコンポジットの力学特性を評価する引張試験では、3層の和紙と2層のPBSからなるグリーンコンポジットの縦弾性係数は大きく、和紙単体に比べて引張強さが約2倍程度だった。和紙とPBSを積層して作製したグリーンコンポジットの断面は、PBSが和紙に含浸して繊維を取り囲んでいるように見える。

和紙、PBS、グリーンコンポジット(和紙1層・PBS2層(W1P2)、和紙2層・PBS1層(W2P1)、和紙3層・PBS2層(W3P2))の引張試験結果。 右上隅の写真はW3P2 と和紙。

W3P2 の断面画像。赤色の部分は和紙。

57日間(約8週間)にわたり生分解性実験を実施したところ、コンポスト中でグリーンコンポジットの生分解性は極めて良好で、5週間後に82%の生分解率に達した。また、6週間後には、コンポストから取り出せないほど劣化していた。一方、PBSの生分解率は57%だった。

(左)CO2 発生量と日数の関係。(右)分解率と日数の関係。

次にコンポスト中におけるグリーンコンポジットの縦弾性係数、引張強さ、破断伸び、密度の変化をまとめたところ、コンポスト中のグリーンコンポジットの縦弾性係数、引張強さ、破断伸びは、水中の場合と異なり、4週間後に急激に低下した。一方、コンポスト中のグリーンコンポジットの重量は2週間後に15%低下している。

コンポスト/水中における PBS および W3P2の (左上) 縦弾性係数、(右上) 引張強さ、(左下) 破断伸びおよび (右下) 重量の変化。

PBSとグリーンコンポジットを比較して、縦弾性係数、引張強さ、破断伸びと生分解率の関係を見ると、縦弾性係数、引張強さ、破断伸びの低下率と生分解率には相関が見られ、偶然にも材料に関係しない結果が得られた。一方、重量の低下率と生分解率との関係は示していないが、相関は見られたものの、材料によって異なる挙動を示している。

複合材料の生分解性に関する評価方法は、まだ十分に確立されていない。研究では、世界で初めて力学特性変化と分解率の関係を示した。今後、さまざまな生分解性複合材料についてより深く調査し、生分解性の評価方法そのものを研究していく。

関連情報

宮城の手すき和紙を原料に高強度で高生分解性の複合材… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

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