縦、横、斜めへの伸縮性と透湿性を兼ね備えた導電性生体電極を開発 東工大

東京工業大学生命理工学院の藤枝俊宣准教授らの研究チームは2024年6月20日、伸縮性と透湿性、自己接着性を兼ね備えた表面筋電位測定用の生体電極を発表した。膜厚300-400nmのエラストマー薄膜の片側上に、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)からなる繊維状の導電材料を薄く塗布した繊維ネットワークを形成している。

市販の装置や、これまで研究や開発されてきた装着型生体電極は、硬質で伸縮性に乏しく、水蒸気を透過しないため、皮膚への適合性が十分とは言えなかった。そのため、身体動作に伴う皮膚の変形を拘束せずに伸縮でき、湿度透過性を有し、皮膚表面の凹凸や柔らかさに接着剤なしでなじむような、装着型生体電極の開発が求められていた。

研究では、皮膚への密着性や伸縮性、透湿性、電気伝導性のバランスを取るため、導電層として疎水性のSWCNTからなるナノ繊維ネットワーク構造、ネットワークの支持層としてエラストマー超薄膜を用いた二層構造の導電性伸縮超薄膜を開発した。

今回、グラビアコート法により、約360nmの厚みを持つエラストマー超薄膜を作製。SWCNTを含有した水性インクを超薄膜上に、同コート法を用いて塗布し、乾燥させる工程を3回繰り返して、層の平均厚み約70nmのSWCNTナノ繊維ネットワークを形成させ、導電性伸縮超薄膜を作製している。

この超薄膜のシート抵抗値は、導電性高分子PEDOT:PSSを用いた従来の導電性超薄膜と同程度の0.6kΩ sq-1 だった。また、作製した導電性伸縮超薄膜はPEDOT:PSSを塗布したもの(弾性率298MPa、切断伸度22%)よりも柔らかく、伸びやすかった(弾性率86MPa、切断伸度386%)。

(a)皮膚上に貼付した導電性伸縮超薄膜の外観写真と(b)SWCNT繊維状ネットワークの顕微鏡観察画像、(c)透湿性の概念図

透湿性は、支持体としての濾紙(桐山濾紙)に、210nmの膜厚を有するエラストマー超薄膜を貼り付けて測定した際、水蒸気透過率が濾紙自体の透過率に匹敵する値である6198gm-2(2h)-1を示した。これは、超薄膜が高い水蒸気透過率を持つことを意味している。

SWCNTを塗布した導電性伸縮超薄膜(濾紙に貼付した状態)は、5183gm-2(2h)-1、導電性伸縮超薄膜自体の水蒸気透過率を計算すると28316gm-2(2h)-1となり、人間の表皮の水蒸気透過率204±12gm-2(2h)-1よりも値が二桁程度大きく、導電性伸縮超薄膜が透湿性にも優れることがわかった。

(a)導電性伸縮超薄膜のシート抵抗値、(b)作製した超薄膜の引張試験結果(応力-ひずみ曲線)

超薄膜の水蒸気透過率の膜厚依存性

右腕前腕に接着剤なしで、この導電性伸縮超薄膜を貼付して、表面筋電位測定ユニットと接続し、右手にトレーニング用のグリッパーを把持して5秒ずつ「握る」と「解放する」を5回繰り返した結果、市販ゲル電極に匹敵する信号/ノイズ比(SNR)を示した。これにより、生体電極として使用できることがわかった。

今回の研究により、エラストマー層が高い伸縮性を示すだけでなく、SWCNT繊維ネットワークの導電層は、みかん販売用の網袋(みかんネット)のように縦、横、斜めに原型の最大400%まで変形できることがわかった。生体電極に求められる伸縮性を損なわず、一般的な濾紙よりも透湿性が5倍ほど高いため、装着者に違和感を与えにくい。生体筋の活動状態をリアルタイム、長時間測定するスポーツ科学や介護分野への応用が期待される。

開発した生体電極は、一般的なロール・ツー・ロールプロセスを用いて製造できるため、将来的な大量生産にも適している。今後、さらに電極の性能(SNR)を高めるために、皮膚と電極の界面の電気化学インピーダンスの低減を目指す。

関連情報

みかんネットのように伸びる超薄型の生体電極を開発 導電性ナノ繊維ネットワークが伸縮性と透湿性を両立 | 東工大ニュース | 東京工業大学

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