- 2024-6-26
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- オーミケンシ, カーボンナノチューブ(CNT), セルロース繊維, ランフラットタイヤ, レーヨン, 信州大学, 産業技術総合研究所(産総研), 研究, 自動運転
産業技術総合研究所は2024年6月25日、オーミケンシおよび信州大学との共同研究グループが、レーヨンに匹敵する強度と伸度を兼ね備えた、低環境負荷のカーボンナノチューブ複合セルロース繊維を開発したと発表した。
自動運転技術の一般化に備えて、パンク時にも一定距離を走行できるランフラットタイヤの普及が求められている。ランフラットタイヤでは、強度と伸度に優れ、熱による性能低下も少ないレーヨンが広く用いられている。
一方で、レーヨンの製造プロセスでは、毒性が強い二硫化炭素が溶剤として必要だ。二硫化炭素は揮発性が高く、レーヨンの製造プロセスにおいて完全には回収できないため、環境への悪影響が懸念されている。
このため、レーヨンと同じような特性を有しつつ、環境負荷が低い繊維素材の開発が期待されている。
同研究グループは今回、カーボンナノチューブを複数本からなる束としてイオン液体中に分散させた。これまでの手法ではカーボンナノチューブを1本1本孤立した状態に分散させていたため、品質の低下が起こりやすい状態となっていた。
上記の手法でカーボンナノチューブを0.1質量%添加することで、セルロース繊維の強度を保ちつつ、伸度が3割増加。また、引張試験カーブの伸度と強度の積分で表されるタフネスは4割増加した。
さらに、分散液中のカーボンナノチューブ束のサイズが約400〜800nmの範囲においてセルロース繊維の伸度が向上し、強度も低下せずに保たれていることを確認した。繊維の紡糸速度(最大巻取速度)も3割増加し、生産性が向上している。
繊維の構造を解析したところ、カーボンナノチューブ束の直径を約10~100nm(セルロース繊維の中間階層構造と同程度)にして糸中に均一に分布させることで、補強効果が生じることが判明した。
同発表によると、カーボンナノチューブ各種(0.1~50質量%)やシリカといった他の補強材(1~50質量%)を添加したこれまでのセルロース繊維の報告例と比べて、今回開発した繊維の強度が最も高かったという。
同研究グループは今後、実用的な製造プロセスの開発と得られる複合繊維の試作を進める。また、タイヤメーカーと連携し、試作品の評価を受ける計画となっている。