- 2021-11-17
- ニュース, 化学・素材系, 技術ニュース
- その場観測CVD法, データ同化, フレキシブル, 半導体原子シート, 東京大学, 東北大学, 核形成モデル, 研究, 透明デバイス, 遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)
東北大学は2021年11月15日、同大学大学院工学研究科の研究グループが東京大学大学院工学系研究科の研究グループと共同で、透明でフレキシブルな半導体原子シートである遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の結晶成長初期の核形成過程を直接観測する手法を開発したと発表した。また、TMD原子シートの新たな核形成モデルを発見している。
原子オーダーの厚みを有するTMDは、グラフェンと類似した原子シート構造を有するほか、グラフェンにはない半導体特性や原子層特有の柔軟性、透明性を示すため、フレキシブルで透明な次世代半導体材料として注目されている。
しかし、TMDの合成技術は未だ開発途上だ。特に結晶成長の初期段階において結晶核を制御する技術の開発にあたり、結晶核形成過程を定量的に計測する手法が求められていた。
今回の研究では、合成時の様子をリアルタイムでモニターできる結晶成長手法「その場観測CVD法」を用いた。TMDの一種であるWS2成長過程初期の基板上の様子を光学的に撮影し、得られた結晶成長画像を自動解析する機構を開発。肉眼では判別が難しい初期の結晶核形成過程を定量的に計測することに成功した。
同計測手法により、気相から供給された成長前駆体が微小液体(液滴)状態に変化して基板上を動き回り、複数の液滴が融合してクラスター(前駆体の中間状態)を形成した後、クラスター内部で液体―固体相転移が生じることで単層WS2が成長する様子を直接観測した。
一般的な古典的核形成モデルでは、前駆体からの核形成が中間状態を経ずに進行する。これに対して、中間クラスターを経由した核形成は、非古典的核形成モデルの二段階核形成として近年注目を集めている。同大学によると、TMDの核形成がこの非古典的核形成モデルによるものであることを実証したのは世界初だという。
また、今回の研究では、成長基板のみの温度を独立して制御できる機構を採用した。TMD核形成までにかかる時間(インキュベーション時間)が基板温度に依存して非線形な振る舞いをすることや、この現象が液体前駆体の熱活性に伴う拡散能力と液相と固相の温度差による結晶成長駆動力のバランスで決定することを解明している。
加えて、実験的に得た光学画像をシミュレーションに取り入れるデータ同化手法を用いて計算機シミュレーションを実施し、定量的フェーズフィールドシミュレーションで合成パラメータを再現した。
定量的フェーズフィールドシミュレーションの中には、実験で計測が難しい結晶成長に関連したさまざまな物理パラメータが多く含まれている。計算結果をフィードバックすることで、詳細な結晶成長物理パラメータの制御が可能となることが期待される。
今回の非古典的核形成モデルを用いることで、将来的には巨大単結晶TMDの合成や二層TMDにおける積層方位制御などが可能となり、TMD結晶の品質が向上することで、次世代の高性能なフレキシブル透明デバイスの実現に寄与することが期待される。