- 2024-9-3
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- Nano Letters, アンチストークス発光, オージェ再結合, ドットインクリスタル, ハロゲン化金属ペロブスカイト, 京都大学, 光学冷却, 励起子, 千葉大学, 半導体, 半導体量子ドット, 大阪大学, 研究
千葉大学は2024年9月2日、大阪大学や京都大学との研究チームが、ハロゲン化金属ペロブスカイトを用いて、光で物質を冷やす「半導体光学冷却」の実証に成功したと発表した。研究成果は同年8月29日、米国化学会の学術誌『Nano Letters』に掲載された。
ハロゲン化金属ペロブスカイトは、次世代の太陽電池や発光デバイス材料として注目され、発光効率が高いという特徴がある。物質は発光してエネルギーを放出する際、残ったエネルギーを熱として放出するので、発光の際は温度が上昇する。ところが、ペロブスカイトには受け取った光エネルギーより高いエネルギーの発光をする「アンチストークス発光」というユニークな性質があり、もし、発光効率100%のアンチストークス発光が起きれば、光を照射すればするほど、発光を通じてエネルギーを失い、物質の温度が下がることになる。
実際に希土類という発光効率がほぼ100%のイオンを分散させた結晶では、こうした光学冷却が確認されているが、光の吸収率が小さく、冷却デバイスを大きくせざるを得ないうえ、低温冷却にも限界があるという課題があった。
そこで研究チームは、丈夫で高い発光効率が維持されるドットインクリスタルという形状のペロブスカイトに注目し、半導体の光学冷却の実現を目指して研究を続けている。
研究に使われたドットインクリスタルは、CsPbBr3という組成のペロブスカイト量子ドットがCs4PbBr6結晶の中に埋め込まれた構造(CsPbBr3/Cs4PbBr6)をしている。
半導体に光を照射すると、電子と正孔のペアである励起子が生成され、励起子が再結合するときに発光が起きる。一方で、励起子の密度が高くなると、発光せずに熱を放出して再結合する「オージェ再結合」という過程が現れる。半導体量子ドットでは、オージェ再結合が起きるため、強い光を当てると光冷却ではなく、光加熱が生じてしまう。
このため、研究チームは時間分解発光分光を用いて、オージェ過程がどの程度起こりやすいかを調べた。その結果、比較的弱い強度でも光加熱が生じてしまうことが確認できた。そのうえで、発光効率の高い部分だけを選択的に光照射するため、マイクロサイズの結晶を作り、数多くのマイクロ結晶で光学冷却実験を行った。
すると、複数の試料で冷却が観測され、励起光の強度を変えていくと、冷却から加熱へと移り変わる様子も観測された。
今回の研究では、光学冷却にはオージェ再結合によって決まる限界があることを示し、励起光強度に依存して冷却から加熱へと移り変わることを実証した。より低温の光学冷却を実現するには、量子ドットの密度を上げ、オージェ再結合を起こさないようにすることが必要で、サイズの大きな量子ドットを使うことが一つの方法と考えられるが、発光効率を上げるのが難しくなることも予想される。
研究グループは、「今後、量子ドットの周囲の物質を工夫することでオージェ再結合の確率を減らす試みが必要となる」としている。