- 2025-3-28
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- Communications Materials, コーネル大学, タンタルクラスタ, ドラッグ効果, ドラッグ抵抗効果, ナノ結晶, ナノ結晶合金, 合金, 学術, 応力集中, 材料脆化, 格子振動フォノン, 衝撃, 転位すべり, 転位集積, 転位-フォノン, 金属, 銅タンタル(Cu-3Ta), 陸軍防衛研究所(ARL)

アメリカのコーネル大学を中心とした共同研究チームが、極限的な衝撃に耐える金属や合金を設計する新しい手法を提案している。結晶粒径がnmレベルのナノ結晶によって、極めて高い歪み速度条件下においても、転位すべりをnmスケールに閉じ込める。転位-フォノンのドラッグ効果を完全に抑制できることを実証したものであり、その結果、材料脆化を低減して破壊を防止することができる、と考えているという。陸軍研究所 (Army Research Laboratory:ARL)と連携して研究を進めており、高速衝撃に耐える自動車や航空機、装甲の開発が可能になると期待している。
金属材料の延性は、結晶中に存在する転位が結晶面をすべることによって発現する。転位は、結晶粒界や介在物などの障害にぶつかるまで移動することができ、最終的に転位すべりが停止して転位集積に基づく応力集中による亀裂が発生するまで、大きなマクロ変形を発現することが可能である。一方、高速道路での衝突や弾道の衝撃のように、金属材料が極限的な高速条件で衝撃を受けると直ちに破壊し損傷する。このような条件では、転位が毎秒kmオーダーの速度に加速され、格子振動フォノンと相互作用し始め、ドラッグ抵抗効果が生じて、著しい材料脆化が起こり破壊に至る。転位運動が、熱活性的な転位すべりから弾道輸送へと基本的な遷移が生じるため、延性が失われ脆化する。
研究チームは、「衝撃で生じる極めて高い歪み速度条件下でも、転位すべりをnmスケールに閉じ込めることにより、転位の弾道輸送とその結果生じるフォノンドラッグを抑制し、材料の脆化を防止できる」と考え、概念実証にチャレンジした。ARLと連携して、ナノ結晶合金、銅タンタル(Cu-3Ta)を創成した。銅のナノ結晶粒は非常に微細で、転位の運動は本質的に微細な結晶粒内に閉じ込められる。さらに、結晶粒内のタンタルクラスタによる介在物によって、いっそう制限される。
衝撃試験としては、10μm径のシリカ製球状微少発射体を、レーザーパルスによって航空機よりも高速の1km/sの速度で発射できる手作りの卓上試験台を用いた。微少発射体はターゲットのナノ結晶合金に衝突し、衝撃および跳ね返りが高速カメラで記録された。データ解析にあたっては、低速における熱活性と高速における弾道輸送を分離する理論的なフレームワークを開発し、衝撃において消散されるエネルギー量を追跡した。純CuおよびCu-3Taについて試験するとともに、衝撃試験および低速インデント試験も行った結果、Cu-3Taナノ結晶合金においては歪み速度109/sでも衝撃エネルギーを充分に吸収し、フォノンドラッグ効果が完全に抑制されることを確認した。
「高速条件における挙動が、世界で初めて観察された。だが、いまだたった1つの合金に関する実験に過ぎない。さらに、広汎な成分やミクロ組織において、転位—フォノンのドラッグ効果を制御できるようにする研究が必要である」と、研究チームは考えている。
本研究成果は、2025年3月5日に『Communications Materials』に公開されている。