- 2024-10-31
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- Science Advances, ナノリアクター, ノースウェスタン大学, パラジウム, 学術, 水素原子, 白金属元素, 米国科学アカデミー紀要(PNAS), 酸素原子, 電子エネルギー損失分光法, 高真空透過電子顕微鏡
米ノースウェスタン大学は2024年9月30日、同大学の研究チームが水素原子と酸素原子が結合してナノサイズの水の泡が形成される様子を、分子レベルで初めてリアルタイムで観察したと発表した。この成果は宇宙など乾燥した環境での水生成に応用できる可能性があるという。
1900年代初頭から、白金属元素の1つであるパラジウムが水を迅速に生成する触媒として働くことは知られていたが、この反応がどのように起こるのかは謎のままだった。この水生成反応で何が起こっているのか、また、どのようにこの反応を最適化するかを解明するには、水の生成を直接視覚化することと、原子レベルでの構造解析を組み合わせる必要がある。しかし、2023年まではこのプロセスを原子レベルの精度で見ることは不可能だった。
研究チームは2024年1月に、気体分子をリアルタイムで解析する新しい方法を『Science Advances』で発表した。ハニカム形状のナノリアクター内に気体分子を保持する超薄膜ガラスを開発し、高真空透過電子顕微鏡で観察できるようにした。大気圧気体中のサンプルを従来の技術で調べた場合の分解能は0.236nmだったが、新しい方法ではわずか0.102nmの分解能で調べられるようになった。また、この新技術により、スペクトル情報と相互関係情報の同時解析が初めて可能となった。
この新技術を使ってパラジウム反応を調べたところ、まず、水素原子がパラジウムの中に入り込み、その正方形の格子を広げているところが見えた。そして、パラジウムの表面に小さな水の泡ができるのを見た研究チームは、これは直接観察された泡の中で最も小さな泡かもしれないと考えたという。
電子エネルギー損失分光法という手法で散乱電子のエネルギー損失を調べたところ、研究者らは水特有の酸素結合特性を確認し、その泡が本当に水であることが立証できた。さらに、泡を加熱して沸点を評価することでも水であることを確認した。
パラジウム反応による水生成の確認後、研究チームはこのプロセスの最適化を目指した。水素と酸素を別々のタイミングで加えたり、一緒に混ぜたりして、どのやり方が最も速く水を生成するかを突き止めた。その結果、最初に水素を加えてその次に酸素を加えると、反応速度が最も速くなることが分かった。
酸素原子はパラジウム表面に吸着するにはエネルギー的に有利だが、大きすぎてパラジウム格子内には入れない。最初に酸素を流し込むと、解離した酸素原子がパラジウムの表面全体を覆ってしまい、水素がパラジウム表面に吸着できないので反応を引き起こせなかった。一方、水素原子は非常に小さいため、パラジウム原子の間に入り込み膨張させる。パラジウムを水素で満たした後に酸素ガスを加えると、パラジウムから水素が出てきて酸素と反応し、パラジウムが収縮して最初の状態に戻った。
このように、ナノスケールでの水生成を直接可視化することで、周囲条件下での迅速な水生成に最適な条件を特定できた。極端な反応条件を必要とせず、また、パラジウムを消費しないため、気体と金属触媒を使用した深宇宙環境での迅速な水生成の実現など、持続可能で実用的な応用が期待できるとしている。
この研究は、2024年9月27日付で『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された。