超短パルスレーザーで優先配向したNV中心の直接書き込みに成功 京都大、神戸大

京都大学大学院工学研究科と京都大学化学研究所の研究グループは2023年12月26日、神戸大学と共同で、超短パルスレーザーにより優先配向したダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心の直接書き込みに成功したことを発表した。ダイヤモンドNV中心形成のポストプロセスとして、量子情報デバイスの新しい製造方法に道を拓くものと期待される。

ダイヤモンド結晶内の空孔とそれに隣接する不純物窒素で構成されるNV中心は、量子情報デバイスとしての応用が期待されている。また、NV中心は磁場、電場、温度、応力等を超高感度で検出できる量子センサーとして、幅広い分野での応用が期待されている。

量子情報デバイスには優れた特性があるが、その特性はNV中心の濃度や配向性によって左右される。これまでNV中心の配向制御は、化学気相成長法(CVD)によるダイヤモンド結晶成長時にのみ実現されており、結晶内の任意の位置に自在に配向制御されたNV中心を形成するプロセスが求められている。

(a) NV中心の構造、(b) NV中心がとりうる4つの等価なNV軸

これまでに、N2ガスやO2ガスの超短パルスレーザー照射によるイオン化効率は偏光状態に依存すること、LiF結晶において超短パルスレーザーの吸収が偏光方向に依存することが報告されているが、こうした現象は、分子または結晶軸と電場方向の相対角度により、電子の有効質量や3次非線形感受率に異方性が生じるためと考えられる。

ガラスなどの等方性材料でも観察される偏光方向に依存した現象は、多光子吸収過程の量子干渉やコヒーレント光起電力効果に基づく光イオン化の非対称性に由来すると考えられる。

研究グループは、ダイヤモンドにおけるNV中心の形成は、このように多光子吸収などの非線形光学現象や光イオン化が照射レーザーの偏光状態に依存するため、レーザーの偏光方向の影響を受ける可能性があると考えた。

そこで、時間依存密度汎関数法(TDDFT)に基づき、ダイヤモンド内で光励起された電子数と電子バンドにおける偏光依存性を計算した結果、励起電子数や電子バンドごとに偏光依存性があることを確認した。

(a) 光励起したダイヤモンドの励起電子数と(b) 主なエネルギーバンドの電子(上)およびホール(下)
における偏光依存性のシミュレーション結果

さらに、実際に超短パルスレーザーをダイヤモンドに照射し、形成したNV中心における光検出磁気共鳴(ODMR)の検出信号のコントラストや偏光蛍光顕微鏡観察の結果から、NV軸の配向方向は、照射レーザーの偏光方向に応じて[111]に平行な方向に偏り、光検出磁気共鳴(ODMR)の検出信号のコントラストが、ランダム配向の場合の25%と比較して、最大で55%まで増加することを発見した。

ODMRおよび蛍光偏光顕微鏡観察により求めたレーザーの偏光方向に対するNV軸の配向率

光励起電子の偏光依存性は、周期性があるように見えるが、[111]方向へのNV軸の配向の偏光依存性は非常に複雑になっている。しかし、今回の結果は、光プロセスによる量子情報デバイス作製の新しいアプローチとして期待される。今後は、配向率のさらなる向上をレーザーの条件の最適化によって目指す。

関連情報

レーザーでダイヤモンドに優先配向した欠陥を書き込み! ―ダイヤモンド量子情報デバイス作製のポストプロセスに道拓く― — 京都大学 工学部・大学院工学研究科く―

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