- 2024-11-6
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産業技術総合研究所(以下、産総研)は2024年11月5日、0.9V以下の電解電圧で水から水素を製造する手法を開発したと発表した。
カーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギーで製造するグリーン水素に注目が集まっている。一方で、グリーン水素は電解により製造されるため、電力コストが高いことが課題となっていた。
産総研は、以前より光触媒-電解ハイブリッドシステムによる水分解法を研究している。同手法は、光触媒反応と電解反応を組み合わせるもので、電力消費量を低減できる点が特徴だ。産総研は以前、光触媒の反応速度を向上できる表面処理手法を開発している。一方で、電解と組み合わせた水素製造の全体システムはこれまで開発に至っていなかった。
今回、光触媒―電解ハイブリッドによる水分解に使用する電解セルとして、通常の水分解に用いられるPEMセルを採用した。さらに、シート上に光触媒粉末を固定し、溶液のみを循環させる流通型の反応装置を開発した。
同装置のPEMセルに0.9Vの印加電圧をかけながら光触媒反応槽に光照射したところ、水素生成に由来する電流が観測された。
続けて、330平方cmの光触媒シートを作製し、水上置換により水素および酸素ガスを捕集した。
光触媒シートに光照射のみを実施し、Fe2+イオンの生成速度で光触媒反応の速度を評価した。結果として、Fe2+イオンが効率よく生じ、それに対応する化学量論量の酸素ガスが生じた。光エネルギーから化学エネルギーへの変換効率は0.31%となり、既存の懸濁状態での評価に匹敵する効率に達している。
次いで光照射を停止し、200mAの定電流モードで電解反応を実施した。0.9Vより低い印加電圧で電流が流れ、消費した電気量に対応した化学量論量の水素を捕集した。
光触媒反応で鉄塩水溶液中に貯蔵した化学エネルギーは、2カ月程度大気下で放置しても減少しないことを確認している。需要に応じたタイミングでの水素発生が可能となる。
また、ウォーターバスにより液温を35℃に制御し、1万マイクロモルのFe3+イオンを含む鉄塩水溶液に沈降した光触媒に向けて疑似太陽光を照射した。
240時間光照射したところ、Fe3+イオンの約8割が光触媒反応によりFe2+イオンに変換された。この生成量をベースに、触媒を再利用して再度同様の光触媒反応を評価し続けた。
42サイクル繰り返したところ、Fe2+イオン生成量が計1万80時間の光照射実験を経ても保持され、劣化は生じなかった。この総照射光量は、日本における屋外太陽光照射約7年分に当たるという。
実際の太陽光を用いた野外実験では、試験当日の日射量の推移に応じた水素生成の電流値を観測した。生成した水素量は、通電量から見積もられる理論量に近い値となっており、投入電力はほぼ全て水素生成に用いられている。
産総研は今後、光触媒の性能改善に向けて、長波長の光を利用できる光触媒反応の開発に取り組む。また、大型実証や詳細な水素製造コスト試算を進めるとしている。