理化学研究所(理研)や東京大学などの共同研究グループが2017年3月16日、非磁性半導体である「酸化亜鉛」の伝導電子が磁石の性質(磁性)を持つことを明らかにしたと発表した。従来の半導体では磁性と高速制御の両立が困難だったが、今回の研究成果はその問題に解決の糸口を与える可能性がある。
電源を切っても磁性を持つ半導体を「磁性半導体」という。トランジスタから構成されるメモリは揮発性を示すため、長期にデータを蓄積するには動作速度の遅い磁気ディスクやフラッシュメモリに情報を転送する必要がある。そのため、磁性半導体による不揮発で高速なメモリの作製が提案されている。
従来作られていた磁性半導体は、非磁性半導体のシリコンや砒化ガリウムに磁性元素を少量混ぜたものだ。しかし、磁性元素を混ぜると電子が頻繁に散乱し、電子の移動速度が通常の半導体より大きく低下する。電子の移動速度が低下するとスイッチング速度も低下するため、磁性半導体を用いても高速デバイスの作製は困難だった。
そこで共同研究グループは、非磁性の酸化物半導体である「酸化亜鉛」を母体として、半導体中を移動する電子(伝導電子)に磁性を持たせることに着目。本研究では、酸化亜鉛の伝導電子の振る舞いを詳しく調べることで伝導電子が磁性を持つことを示し、その発現機構を特定することを目的とした。
酸化亜鉛を流れる伝導電子の特性を磁場中で詳しく調べたところ、伝導電子が磁性を持つときに特徴的に生じる「異常ホール効果」を観測した。さらに理論的解析の結果、酸化亜鉛中に存在する少量の結晶欠陥(欠陥)が小さな磁石として働き、伝導電子に磁性を持たせていることが明らかになった。
今回の研究成果は、従来困難だった“磁性と高速制御の両立”に解決の手掛かりを与える可能性がある。今後、動作温度の向上やデバイス化を進めることで、酸化亜鉛の磁性半導体は現在のメモリ素子の一部を置き換える材料として、低消費電力デバイスへの応用が期待できる。