3Dプリンターで製作した部品は、航空宇宙や軍事関連、医療機器に至るまで、幅広い業界で利用されている。
しかし現在のところ、3Dプリント部品には比較的壊れやすいという課題があり、試作品や玩具部品としての利用が主な用途となっている。
そうした課題を解決しようと、テキサスA&M大学の研究チームが、3Dプリントした部品の強度を2.75倍に強化する技術を開発した。
同技術を考え出したのは、同大学の材料科学・工学科の博士課程に在籍するBrandon Sweeney氏と指導教官のMicah Green准教授。3Dプリンター用フィラメントにカーボンナノチューブ合成物をコーティングし、電磁波によって3Dプリント部品の積層面を接合し直して、部品の強度を向上させるという。
溶接からヒント。カーボンナノチューブで局所の熱をコントロール
一般的なFFF(熱溶融積層)方式の3Dプリンターで製作した部品は、コンマ数mmのレイヤーを何層も積み上げて形作られている。FFF方式で作られた部品は、レイヤーに対して水平方向の力には強いが、垂直方向の力には弱いという課題があった。
Sweeney氏は溶接からヒントを得て、3Dプリント部品の強度を上げるために積層面を接合し直してはどうかかと考えた。ただし3Dプリント部品は前述のとおり、コンマ数mmのレイヤーを積み重ねてできている。熱を加え過ぎて部品を変形させないように、局所的に熱を加えて上手くコントロールする必要があった。
Sweeney氏らは偶然にも、携わっていた別のプロジェクトから、熱をコントロールしながら接合し直す方法を思い付いた。カーボンナノチューブの特性を利用したのだ。
別プロジェクトでは、カーボンナノチューブが電磁波によく反応する特性を利用していた。積層面を接合し直すのにこの特性を応用したのだ。
具体的には、カーボンナノチューブ合成物を3Dプリンター用フィラメントにコーティングし、特殊な電子レンジのような装置で電磁波を照射して積層面を接合し直す。現段階では温度コントロールも必要なため、赤外線カメラを使って温度をモニターしている。
この技術は特許出願中であり、現地企業のEssentium Materialsとライセンス提携を締結。カーボンナノチューブ合成物の製造技術と電磁波を用いて接合し直す技術を、3Dプリンターに組み込む開発作業が進められている。開発中の3Dプリンターでは、部品の製作から再接合まで、1台の装置で対応できるようにする計画だ。
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なお、この研究成果は「Science Advances」に論文「Welding of 3-D Printed Carbon Nanotube-Polymer Composites by Locally Induced Microwave Heating」として掲載されている。