助触媒の自己再生機能を持つ光触媒シートを開発 東京大、東京理科大など

人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)と東京大学、東京理科大学は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて、助触媒の自己再生機能を有する光触媒シートを開発した。人工光合成において重要な酸素発生機能の寿命を、これまでの20時間程度から1100時間以上へ大きく向上させている。

NEDOとARPChemでは、「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」において、太陽エネルギーを利用して光触媒によって水から得られる水素と、二酸化炭素を原料とした基幹化学品(C2〜C4オレフィン)製造プロセスの基盤技術開発に取り組んでいる。同プロジェクトにおける研究テーマの一つである光触媒の開発は、太陽エネルギーを利用した水分解で水素と酸素を製造する光触媒材料およびモジュールの開発を目指すものだ。

光触媒シートでは、太陽光を吸収する表面に、化学反応を促進する「助触媒」を固定化して動作させることが一般的だ。酸素発生用の助触媒には、鉄、ニッケル、コバルトなどの酸化物が用いられる。しかし、これら助触媒は、水分解反応を長時間行う過程で水中に脱落、溶解するため、光触媒の長寿命化を妨げる要因となっていた。

その課題を解決するため、今回の研究では、高水準の酸素発生機能を持つ可視光応答性光触媒であるバナジン酸ビスマスの粉末をガラス基板上に塗布し、その上に導電層としてニッケルとスズを蒸着した後、導電層および光触媒層を剥離するという粒子転写法プロセスにより、酸素発生機能を有する光触媒シートを開発した。

この光触媒シートは、バナジン酸ビスマスとスズとニッケルの導電層が強固に接合されており、さらにこのシートを水中に入れた場合、導電層から水中に微量に溶出するNi2+イオンが、水中に微量溶解している鉄イオン(Fe2+)とともにニッケル鉄混合酸化物(NiFeOx)として光触媒表面に固定化され、光触媒の助触媒として機能することがわかった。

従来法で作製したバナジン酸ビスマス光触媒シートでは、光照射開始から20時間後程度から助触媒の脱落、溶解による活性低下が始まるが、今回の手法による光触媒シートでは、導電層からNi2+イオンが微量に水中に溶出することで助触媒が自己再生されるため、1100時間経過しても全く活性低下が認められなかった。このような助触媒の自己再生機能を持つ光触媒は、これまで全く知られていなかったという。

今後同研究グループでは、光触媒の長寿命化のための手法開発をさらに進め、光触媒開発の2021年度末の目標である太陽エネルギー変換効率10%の達成を目指すとしている。

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