産総研、「光コム」(超短光パルスレーザー)2台で気体温度を測定する技術を開発

「光コム」を用いた温度測定の概念図

産業技術総合研究所(産総研)は2017年8月23日、「光コム」と呼ばれる超短光パルスレーザーを2台用いて気体の温度を測定する新たな技術を開発したと発表した。

光コムとは、スペクトルが等しい周波数間隔で規則正しく櫛(コム、Comb)状に並んだ超短光パルスレーザーで、超高精度な周波数計測や長さ(波長)計測に利用されている。今回開発された技術は、気体分子が吸収する固有のスペクトルの光はその吸収量が気体の温度と相関があることから、2台の光コムを用いるデュアルコム分光技術を活用して気体分子の吸収スペクトルを測定し、気体の温度を測定するものだ。

自動車のエンジンなどの内部では、燃料や空気、水蒸気などの気体が混在して燃焼が進行する。これらの気体の温度やその変化を測定できれば、詳細な燃焼メカニズムの解明により燃費の向上等への貢献が期待できる。しかし現在測定に使われている光ファイバー温度計や放射温度計では、実用上は測定精度が10℃程度のものが多く、適用温度範囲にも制約があるなどの課題がある。産総研では、世界に先駆けて広帯域化を実現するなどデュアルコム分光技術の研究開発を行ってきており、その技術を用いて今回、気体の温度を測定する技術の開発に取り組んだ。

今回の開発では、デュアルコム分光技術により、アセチレン分子の吸収スペクトルを、波長1.5µm付近(周波数194THzから198THzの範囲)で測定し、この領域での多数の吸収スペクトルを一度の測定で取得することができた。また、測定した吸収スペクトルから温度を求める際には、量子力学に基づく理論式により一括解析するという、新たに考案した解析手法を用いた。この解析により、アセチレン分子の温度は23℃と決定でき、解析による誤差は±1℃以内であった。

これまでも吸収分光による温度測定法は提案されてきたが、多くの吸収線を短時間で高精度に測定することが難しく、1本〜2本の吸収線から温度を求めていた。また吸収線は温度以外の要因の影響を受けやすいこともあり、温度を高精度に決定することは困難だった。今回の技術では、一度の測定で得た50本の吸収線の強度を用いて解析しているため、温度以外の影響が低減され、測定精度を向上させることができた。

今回用いられたデュアルコム分光技術は、1.0µm〜1.9µm(周波数では、約158THz〜300THz)の範囲を短時間に、高分解能で測定できる。そのため、水、二酸化炭素、メタン、アセチレンなどの複数の気体の混合気体でも、それぞれの気体分子の吸収スペクトルを同時に高精度で測定できる。そのため、燃焼ガス点火後の分子種ごとの温度やその変化などなどの観測も可能となる。

産総研では今後、混合ガス中の複数種の気体分子の温度を同時に測定する実証実験に取り組む。また、小型化やデータ取得/解析技術の改良により、産業現場でも使用できるリアルタイム温度測定システムとしての実用化を目指すという。

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