九州大学は2018年5月15日、日産化学工業と共同で優れた電気光学特性と熱安定性を持つポリマーの開発を、アダマンド並木精密宝石と共同で超高速光変調器のモジュール開発をそれぞれ進め、従来の無機系光変調器では到達困難な光データ伝送の高速化と低電圧制御に成功したと発表した。
近年、情報通信量は膨大に増加しており、通信機器の高性能化と消費電力の大幅な低減が求められている。また、データセンター用の大容量伝送技術でもコスト低減が要求されている。ポリマー光変調器はこれらの要求に応える新技術として期待されている。しかし、実用化には熱安定性などデバイス信頼性の大幅な向上が必要とされていた。
同大学の横山士吉教授らの研究グループは、電圧を印加すると光の屈折率が変化する特性を持つ電気光学ポリマーを使った光変調器に着目。高性能電気光学ポリマーの合成と光変調器の作製に取り組んだ。
研究グループはまず、ニオブ酸リチウムなどの無機結晶に比べて変調速度が2~3倍の高い電気光学特性を持ち、低電圧で光変調できる物質を合成。この物質で電気光学ポリマー光変調器を作製した。電気光学ポリマーは理論的に100GHz以上の応答性能を持つことが示唆されており、従来の無機系・半導体系光変調器では到達困難な超高速レートのデータ伝送が期待できる。
今回作製の電気光学ポリマー変調器は、光伝送実験において、OOK方式(電気や光信号のオンオフによりデジタルデータを伝送する変調方式の一種)では1秒間に56Gbの光信号を、PAM-4方式(4つの電圧レベルのパルス信号を用いて変調することで、伝送レートをOOKの2倍に増やす方式)では1秒間に112Gbの光信号を発生させることに成功した。
さらに、動作電圧を1.5Vに抑えることにも成功。加えて、ガラス転移温度が180℃以上の電気光学ポリマーの合成にも成功し、105℃でも熱安定性を保つことができた。
現在の光通信技術において、100Gbを超える光信号の発生は、複数の光変調チップを並列で用いた伝送方式が用いられている。このような方式はデバイス制御が複雑であり、製造コストや消費電力の増加が課題だ。
しかし、電気光学ポリマーを用いれば、1つの光変調チップでも100Gbを超える高速の光信号を発生できる。また、ポリマー光変調器は簡便な塗布技術で作製でき、シリコン光集積技術との融合も可能だ。今回の成果により、データセンターやIoTなど新しいネットワーク技術の高速化・省電力化・低コスト化が期待されるという。