3Dプリンターで創傷を治療――バイオインクを使って皮膚組織を形成する携帯型スキンプリンター

カナダのトロント大学応用理工学科のAxel Guenther准教授と博士課程学生のNavid Hakimi氏は、サニーブルック病院のMarc Jeschke博士らと協力して、創傷を覆う皮膚組織層をプリントするハンドヘルド型3Dスキンプリンターを開発したと発表した。怪我の応急措置が必要な現場で2分以内に組織を形成することができるという。研究成果は『Lab on a Chip』に論文「Handheld skin printer: in situ formation of planar biomaterials and tissues」として、2018年4月11日に発表されている。

表皮、真皮、皮下の3つの皮膚層すべてが大きく損傷するような深い創傷の場合、ドナーの表皮を移植する分層植皮術と呼ばれる方法が用いられる。しかし、実際には3つの皮膚層までの深い健全な皮膚をドナーから確保することが難しく、創傷の一部がカバーされないなど治療が十分に行われないという課題がある。皮膚組織を置換できる材料も増えてきているが、臨床での普及にはまだほど遠い状況にある。

今回開発されたスキンプリンターは、ガムテープなどのテープディスペンサーのテープロール部分を、皮膚組織をプリントするマイクロデバイスで置き換えたような形状だ。創傷治療には、真皮中の最も豊富なタンパク質であるコラーゲンと血液を凝固させる作用をもつタンパク質であるフィブリンを含む生体材料からなるバイオインクを利用する。マイクロデバイスから吐出されるバイオインクの流量調整とポリマー同士を連結する架橋技術を組み合わせ、スキンプリンターのロールが創傷上を転がる速さに合わせ、均一な厚さと幅を保った皮膚シートが形成される仕組みだ。

Guenther准教授は、「これまでのバイオプリンターはサイズが大きく、スピードも遅く高価なため、現場での治療には向いていない」と語る。スキンプリンターのサイズは、小さめの靴箱程度で、重さも1kg未満と携帯性に優れている。利用するためのユーザートレーニングも最小限で済み、従来のバイオプリンターのような洗浄や組織培養も不要だ。

今後は、より大きな創傷をカバーし、創傷の状態に合わせたオーダーメイドの皮膚組織形成ができるような機能の開発を進めるという。研究チームは今後ヒトでの臨床試験を進め、特に火傷治療に革命を起こしたいと考えている。

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