大阪大学は2019年4月11日、コップに注いだギネスビールの泡が作り出す模様が、雨水が傾斜面を下降する際に現れる模様(転波)と同様に、コップの傾斜面を液体の塊が転がり落ちているものであることを、同大大学院基礎工学研究科の渡村友昭助教や杉山和靖教授らとキリンの山本研一朗博士らの共同研究グループが明らかにしたと発表した。
ギネスビールは、窒素ガスが加圧封入された黒ビールだ。コップに注ぐと、コーラや炭酸水に含まれる炭酸ガスの泡の1/10程度の微細な泡が発生する。この泡がコップの上から下へと移動すると美しい模様が現れることが知られている。ギネスビールの泡が作り出す模様の発生原因については、いくつかのモデルが示唆されてきたが、模様の発生条件は半世紀以上も特定されていなかった。
ギネスビールは黒ビールゆえに不透明なため、コップの中で泡や液体がどのように運動しているかを観察することは不可能だったという。だが渡村助教らは今回の研究において、中空ビーズと水を用いた透明な「模擬ギネスビール」を作成し、レーザー誘起蛍光法を用いた粒子画像速度計測法のほか、分子タグ法を用いた可視化実験を実施。これにより、液体が不透明なために今まで不可能だった液体速度分布の精緻な計測に成功した。
さまざまな傾斜角度の容器に「模擬ギネスビール」を注ぎ、上述の観察手法を用いて模様の発生条件を探し出したところ、傾斜した壁面の近傍から約1mmの領域のみで模様が発生し、鉛直な壁面の近傍では模様が発生しないことが観察された。また、傾斜壁面近傍では泡を含まない液膜(清澄層)が傾斜壁に沿って流れ落ち、模様が発生している条件では泡を含まない流体塊が高速で落下することも確認された。
これらの結果、コップの傾斜角度が小さい時には模様が出現し、一方でコップの傾斜角度が大きい時には模様が出現しないことが分かり、模様の発生は重力流の不安定により生じる転波の出現で決まることが判明した。つまり、泡が模様を作る条件は容器の傾斜に強く依存し、コップ内部に発生する泡の密度勾配により現れる、泡が少ない液体がコップの傾斜壁に沿って流れる際に、重力流の不安定波である転波の発達により泡の模様が現れることが明らかになった。
工業装置中の泡や粒子のほかにも、自然現象中には無数の小さな物体が存在するが、それらを均一に混ぜたり、一カ所に集めたりする行為は、工業プロセスにおいて重要な要素だ。同研究の発見は、工業装置や食品醸造装置、細胞や微生物の培養装置などの設計方策に活用されることや、容器内部で生じる流動現象に対する物理的な理解を進展させることが期待できる。