山梨大学、龍谷大学、情報通信研究機構(NICT)は2018年10月4日、ナノメートルサイズの針先の近接場光により、光記憶性能を持つフォトクロミック単結晶の表面に光の波長以下の大きさのパターン(アルファベット)を描き、さらに消去することに成功したと発表した。この成果は、波長より小さなスケールにおいて、意思決定などの知的機能に必要な動的記憶構造を実証したものとなる。
近年、「自然知能」と呼ばれる全く新しいタイプの機能が注目され、新たな光材料や光デバイスを用いた光コンピューティングによる実現に向けて活発な研究が行われている。主要な要素である光記憶においては、光による分子の構造変化(光異性化)によって光情報を記録/消去できる「フォトクロミック分子」が注目されている。分子1個の大きさは1nm程度であり、超小型の不揮発性メモリと言える。
研究チームは、これまで光プロセスのみでは実現が困難だった光情報記憶を、ジアリールエテン結晶の光異性化現象と近接場光励起を組み合わせ、ナノメートルスケールで実現する可能性に着目した。その結果、フォトクロミック分子の一種であるジアリールエテン分子が規則的に並んだ結晶の表面に、ナノメートルサイズの光により直径約30nmの書き込み(光異性化)を行うことに成功した。
さらに、この書き込みを繰り返し行うことで光の波長(500nm程度)より小さな200nm四方に1文字ずつ「UY」というアルファベットのパターンを描画することに成功した。Uは8点、Yは6点の近接場光励起により描画した。この文字サイズで印刷すると、単純計算で髪の毛の断面(直径0.1mm程度)に新聞1部の全ての記事を書き込めるという。
研究チームはこのパターンを観察表面全体への均一な近接場光励起により消去できることも確認し、光の波長以下のスケールにおけるナノ光メモリとしての基本性能を確認した。