- 2018-12-19
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- Douglas P. Hart, MIT, Science, アルミニウム空気電池, メンブレン, リチウムイオン電池, 学術
アルミニウム空気電池の実用化に一歩前進、リチウムイオン超えの可能性
MITの研究チームが、自動車用として安価で軽量コンパクトなアルミニウム空気電池の寿命を延ばす、新しい方法を開発した。アルミニウム空気電池については、リチウムイオン電池を遥かに超える高容量二次電池化を目指す研究が進められているが、新たな研究方向を示唆するものとして注目される。研究成果は、2018年11月8日付の『Science』誌に掲載されている。
アルミニウム空気電池は、空気中の酸素をアルミニウムで反応させることで電気を生み出す仕組みの電池だ。具体的には、正極に空気中の酸素、負極にアルミニウム、電解液には水酸化カリウムなどを用い、両極における酸化還元反応を利用して電流を発生させる。空気アルミニウム電池と呼ばれることもある。
アルミニウム空気電池に限らないが、正極で空気中の酸素を活物質として使用することから、理論的には正極の容量が無限となり、大容量を実現できるのが金属-空気電池の特徴だ。
理論上、リチウム空気電池が最高の金属-空気電池になるとされている。その理論値容量は1万1400Wh/Kgだ。しかし、リチウムは空気中で極度に不安定であるため、リチウム空気電池の実用化は困難を極める。
そこで注目されているのがアルミニウム空気電池だ。アルミニウムは空気中で十分に安定するし、枯渇が懸念されるリチウムとは異なり、資源的に豊富で安価だ。
それに加えて、「化学エネルギーを最も高密度に貯蔵できる材料だ」と、研究チームの機械工学科Douglas P. Hart教授は説明する。酸素を外気から取り込むことで電池スペースを小さくすることができ、安価で軽量コンパクト、そして高容量の電池としての可能性を秘めている。
アルミニウム空気電池は、リチウム空気電池に次ぐ2番目の理論値容量があり、その値は8100Wh/Kgにも及ぶ。
アルミニウム空気電池、リチウムイオン電池以上に軽量でコンパクト
しかしアルミニウム空気電池では、使用開始の後、一度スタンバイの状態に入ると、アルミニウム電極がアルカリ性電解液により腐食され、急速に性能劣化が進行するという大きな問題がある。リチウムイオン電池は、1カ月のスタンバイ後、5%の電気しか失わないのに対し、アルミニウム空気電池は、1カ月でその電気の80%を失ってしまう。その他、副産物の除去など、実用化には多くの課題を解決する必要がある。
研究チームは、この腐食現象を顕著に抑制し、電池の有効期限(貯蔵寿命)を長くする方法を見出した。これは、薄いメンブレンを電極間に設置し、スタンバイ時に、アルミニウム電極と電解液の間に油の防壁を設けるデザインを考案したものだ。電池が使用されている間は、メンブレンの両側は電解液で満たされているが、電池がスタンバイに入ると、アルミニウム電極に近い側に油が導入され、メンブレンの反対側にある電解液からアルミニウム表面を守る。電池が再び使用されるときには、ポンプにより油を迅速に排出し、電解液に置き換える。その結果、エネルギー損失は1カ月で0.02%と、実に1000倍以上も改善されたことになる。
研究チームは、電池を繰返し使用し1~2日スタンバイさせるという条件において、従来の電池では3日間しか持たないのに対して、新電池では24日間持続させることに成功した。実用化に向けスケールアップした電池に、油とポンプシステムを組み込んだとしても、既存のリチウムイオン電池よりも、5倍軽量で2倍コンパクトであると報告している。
研究チームは、新技術の応用例として、リチウムイオン電池が電池切れになったときに、緊急的に航続距離を確保できるレンジエクステンダー用電池などを考えている。さらに、長い有効期限を持ったアルミニウム空気電池は、「現在のニッチな用途を超える応用がある」と期待している。研究チームは、新プロセスについて特許を出願している。
日本でも進むアルミニウム空気電池の研究
アルミニウム空気電池は、正極側に水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムなどの副生成物が蓄積しやすい。これが実用化の妨げとなっていた。そこで、富士色素は副生物の発生を抑制するための研究を進めた。
また、富士色素はアルミニウム空気電池向けイオン液体の開発も進めている。
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