東京農工大学は2019年6月6日、日本大学と共同で、化学反応前後の流体の物性値だけでは予測できない、高分子溶液の流動があることを発見したと発表した。
化学反応を伴う気体や液体の流動である「反応流」は、工業分野や環境中、生体内などで観察され、生活の至るところに存在する現象である。気体、液体によらず、化学反応によって流体の物性が変化することで流動も変化するため、これまでは反応前後の流体の物性値を比較することで、化学反応が流体力学に及ぼす影響を予測できることが常識とされていた。例えば、反応前後で粘度が減少するのであれば流動中の粘度も減少すると考えられ、逆に反応前後で物性値の変化がなければ化学反応は流体力学に影響を及ぼさないと考えることが常識だった。
今回、研究チームは高分子溶液反応流研究の体系化を目指して高分子水溶液と金属イオン水溶液の撹拌混合反応過程を系統的に調べていた中で、化学反応により液体の粘度がわずかに減少するにも関わらず、一時的に粘弾性が著しく増加することを偶然、発見した。
この反応メカニズムの解明のために、研究チームは超低濃度、超高分子量の高分子水溶液における赤外分光測定に挑み、試料表面に光を照射して全反射する光を測定することで試料表面の吸収スペクトルを得る「ATR-FTIR法」によってこれを成功させた。その結果、一時的に電荷の高い分子が主成分となることで分子間の電気的な架橋によって見かけの分子量が増加し、粘弾性が増加していたことを見出した。
今回の研究は、マクロな流動の理解にミクロな分子構造変化の解明が必要となる高分子溶液反応流の存在を実証したことになる。この成果は、分子を診る「反応系流体力学」という新しい学問分野の創出につながるほか、新たな反応器設計の枠組みの提案や新たなレオロジーコントロール法の創出といった工業上の応用が期待できるとしている。