宇宙用途から原子炉まで――極限的環境で作動する圧電センサーを開発

ヒューストン大学(UH)の研究チームが、高温で作動する圧電センサーとして単結晶窒化アルミニウム(AlN)薄膜を作成することに成功し、900℃においても高感度かつ高信頼性で耐久性があることを実証した。航空宇宙やエネルギー、輸送、防衛などさまざまな重要分野における極限的な環境でも、圧力や応力の高感度測定を高い信頼性で実現できることが期待される。研究成果が、2023年3月2日に『Advanced Functional Materials』誌に公開されている。

航空宇宙やエネルギー、輸送、防衛などの分野においては、人間の安全や機械システムの信頼性確保のため、高温かつ極限的な状態で作動する圧電センサーが求められている。石油化学工業では、灼熱の砂漠から酷寒の北極に至るまで極限的な気候温度条件において、パイプラインのガス圧が常時監視されなければならない。また、多くの原子炉は300~1000℃の温度範囲において操業され、深層地熱井では600℃までの高温で操業されている。

一般的な圧電素子としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が広く用いられているが、PZTは約300℃で結晶構造が変化して圧電性能が失われるため、それ以上の高温で活用するには導波棒や冷却器が必要になり、高精度測定や広範な測定の障害になっている。「高温環境にも耐える、極めて高感度で高信頼性、耐久性のあるセンサーが求められている」と、UHの研究チームは語る。

研究チームは、これまでに厳しい環境における応用を目的として、単結晶窒化ガリウム(GaN)を用いたⅢ-N族圧電センサーを開発しているが、作動可能温度はPZTより少し高いものの、350℃以上の高温では感度が低下することが判った。この原因について自由電荷生成に関わるバンドギャップが十分に広くないことに起因すると考え、この仮定を検証するためGaN より広いバンドギャップを有し、同じⅢ-N族のAlN薄膜の活用に着目した。

AlN薄膜については、日本でも産業技術総合研究所(産総研)の研究グループが自動車用の燃焼圧力センサーなどを目指して、高温圧電センサーとしての可能性を提案しているが、UHの研究チームは高品質の単結晶AlN薄膜を作製することに成功し、高温における圧電特性を測定した。その結果、900℃まで57~71mV/MPaの高感度と、800℃において0.35~1.40MPaのガス圧範囲に対し73.3~143.2mVの出力電圧を示すことを確認した。「高温における圧電特性は、従来の圧電センサーを超える最高級のもの」と、研究チームは説明する。

研究チームは、「AlNの材料特性は化学的および熱的にも安定性が高いが、今後実際の厳しい環境条件、例えば、原子炉における中性子照射条件下や水素貯蔵における高圧条件下などにおける圧電特性について研究する予定だ」と語る。また、AlN薄膜センサーは、柔軟性という特異なメリットがあり、ヘルスケア用途やソフトロボット用途など、高精度なウェアラブルセンサーとしての可能性もあると期待している。

関連情報

UH Researchers Develop Sensors that Operate at High Temperatures and in Extreme Environments – University of Houston

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