- 2019-8-5
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- LC共振回路, Michel Devoret, Nature, Niels Bohr, イェール大学, シュレーディンガーの猫, 人工原子, 学術, 超伝導ジョセフソン素子, 量子コンピューター, 量子ジャンプ, 量子ビット
イェール大学の研究チームが、本質的に予測不可能とされてきた、原子における量子ジャンプを予測する手法を考案した。量子コンピュータにおける、不可避的な計算エラーの発生を防止する技術に展開できる可能性があり、研究成果は2019年6月3日の『Nature』誌にオンライン公開されている。
量子コンピュータは、量子力学の重ね合わせの原理を活用して計算を行う技術で、素因数分解や量子化学計算などの問題を、通常のコンピュータよりも遥かに高速に解けるとされ、世界中で盛んに開発が進められている。量子コンピュータは、量子ビットという情報単位を用いており、0と1だけでなく、0と1の「重ね合わせ状態」も表すことができる。これによって、デジタルでは効率が悪かった計算や解析を並列的に一気に行える。
ところが量子ビットには、0の状態から重ね合わせの状態へ突然遷移する「量子ジャンプ」が確率的に生ずるため、これが計算エラーの原因になる。従って、この量子ジャンプを制御、抑制することが、量子コンピュータを開発する上での重要な課題となる。
重ね合わせ状態は、2つの正反対の状態が同時に存在し得るという、量子物理における概念であり、1世紀前に物理学者Niels Bohr達によって理論化された。どちらの状態が真実であるかは、実際に測定するまでは予測不可能だ。これを説明するのに使われるのが、有名な思考実験である「シュレーディンガーの猫」だ。放射性物質の確率的な崩壊に伴って、発生する毒が設置された密閉ボックスに猫をいれておくと、状態の重ね合わせの理論によれば、誰かがボックスを開けるまでは、猫には生きているか死んでいるかの2つの状態が同時に存在するというものだ。これと同様に、量子コンピュータにおける量子ジャンプを予測することも、原理的に不可能だとされてきた。
研究チームは、LC共振回路において、コイルを超伝導ジョセフソン素子に置き換え、人工的に3つの離散的なエネルギー準位を有する人工原子を構築した。これにマイクロ波を照射して量子ジャンプを誘起したところ、基底状態からの大きな量子ジャンプの前兆として、基底状態に結合した中間準位からの光子放出が突然なくなることを発見した。これは、量子ジャンプを事前に予測することができることを意味する。さらに、「この量子ジャンプでは、量子性を保っていられるコヒーレンス時間が長く、量子ジャンプを途中で反転させることもできる」と、研究チームを指導するMichel Devoret教授は説明する。この発見により、リアルタイムで量子データをモニタリングし、エラーを修正することができるようになれば、量子コンピュータの開発に大きく寄与するだろうと、研究チームは期待している。
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