- 2024-5-10
- 化学・素材系, 技術ニュース
- シリコン膜, フランス国立科学研究センター, プランクの熱放射則, 単一薄膜, 東京大学, 熱放射, 研究, 表面フォノンポラリトン, 誘電体, 誘電体膜, 輻射熱輸送
東京大学生産技術研究所の研究グループは2024年5月9日、フランス国立科学研究センターと共同で、シリコン膜の表面をわずかに酸化させるだけで、プランクの熱放射則で決まるとされていた熱放射が倍増したと発表した。理論計算により、表面フォノンポラリトンが、この熱放射の増強に寄与したことを明らかにしている。
高性能半導体デバイスなどの電子デバイスは、局所的な発熱による性能や信頼性の低下があるため、熱管理が課題になっている。熱の伝わり方には、伝導、対流、放射の3種類があるが、誘電体薄膜は、4つ目の伝わり方として表面フォノンポラリトンが活躍することが知られている。
誘電体の単一薄膜は、表面フォノンポラリトンにより、放射波長より薄い薄膜からの面内方向の輻射熱は黒体輻射限界を上回るが、形状維持が困難で、より扱いやすい丈夫な支持構造を有する構造では実現されていなかった。
研究では、表面フォノンポラリトンを利用し、シリコンから空間への熱放射を増強する目的で実験を実施した。厚さ10μmのシリコン(非誘電体)の表面を30nmだけ酸化して、表面フォノンポラリトンを発生させる誘電体を形成し、2つの構造を10.7μmのギャップを有して対向する構造を作製した。
金属線を2つの3層構造上に形成し、ジュール熱により加熱されるヒーターと、電気抵抗の温度依存性を利用した温度センサーを作製し、2つの3層構造間の輻射熱輸送(熱コンダクタンス)を評価した。測定の結果、シリコンだけの場合は、プランクの熱放射則に従って、温度上昇に伴い熱コンダクタンスが上昇した。
一方、表面フォノンポラリトンを利用できる3層構造は、その2倍程度大きな値となり、黒体輻射限界を上回った。これはプランクの熱放射則では説明できず、表面酸化膜の形成で発生した表面フォノンポラリトンの寄与が考えられる。
裏付けを得るため、3層構造内の表面フォノンポラリトンの伝播、空間への放射、吸収を理論的に計算したところ、これまでに知られていた単一薄膜からの熱輸送とは異なるメカニズムの輻射熱輸送の増強を引き起こすことが分かった。
従来、プランクの熱放射則を上回る熱輻射は、誘電体膜を数十ナノメートルまで薄くしないと得られないと考えられていたが、研究の成果によって、丈夫で扱いやすい支持構造を有した半導体からでも、より効率的に空間への放熱ができることが分かった。今後、電子機器での熱管理、輻射ヒーターや宇宙空間での放熱などにも応用が期待される。
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