世界で初めて高解像度X線ライトシート顕微鏡を開発――生体試料の三次元イメージングに成功 理研ら

理化学研究所(理研)は2022年6月14日、同所の放射光科学研究センター放射光イメージング利用システム開発チームら国際共同研究グループが、世界で初めて、X線領域での高解像度ライトシート顕微鏡(光シート顕微鏡)「MAXWELL(Microscopy by Achromatic X-rays With Emission of Laminar Light)顕微鏡」を開発したと発表した。可視光領域のライトシート顕微鏡を上回る性能を有する。

可視光領域のライトシート顕微鏡(光シート顕微鏡)は、試料を回転させずに断層像を観察する方法として開発されている。ライトシート顕微鏡では、試料の横からシート型の励起光(ライトシート)を照射し、ライトシートと直交する方向に試料中の蛍光体分布を観察する顕微鏡システムを設置する。ライトシートに対して試料を垂直に並進運動させることで、三次元情報を計算の助けなしに取得できる。

奥行き方向の解像度を決めるライトシートの厚みを1μm以下にするには高度な技術が必要となるが、面内方向は容易に200nm程度の解像度を達成でき、近年の超解像顕微鏡法の技術の併用によってさらに改善できる。しかし、より奥行き方向と面内方向の解像度の非対称性が際立つため、使い勝手が悪くなる。そこで今回、ライトシートの厚みの圧倒的な低減が期待されるX線領域でのライトシート顕微鏡を開発した。

研究では、大型放射光施設「SPring-8」の理研ビームラインBL29XUに、高解像度の三次元イメージング用のX線ライトシート顕微鏡を構築し、X線を全反射ミラーでシート状に絞ることで、シートの最小厚みが65nmであることをナイフエッジ測定で確認した。かつ、20倍のレンズの場合、厚みは顕微鏡の視野(600μm角)の縁でも300nm以下だった。

また、試料中にX線で発光するシンチレーター微粒子を導入。広視野で薄い断面の像から、解像度の高い三次元イメージング計測が試料の奥行き方向にできることを示した。

X線ライトシート顕微鏡の構成とシートの厚み測定の結果

今回用いた全反射ミラーは、極限までX線を小さく集光するのに適し、色収差(像の色のずれ)がないため、試料に光源からの非常に強いX線を単色化せずに直接当てた場合でも、集光サイズ(X線ライトシートの厚み)が小さい。これは、高速での三次元イメージング計測に有利に働く。

20nm程度の量子ドットの微粒子を微細パターン上に付着させた試料を作製し、MAXWELL顕微鏡の解像度を調べた結果では、約400nmの距離に近接する微粒子を解像できた。このことから、面内方向の解像度は400nm程度で、回折限界に達していることがわかった。奥行き方向の解像度は、70nm程度だった。

観察の結果、MAXWELL顕微鏡の解像度は、可視光のライトシート顕微鏡(奥行き方向の解像度数百nmから1μm前後)に比べ、圧倒的に奥行き方向で優り、面内でも回折限界程度を達成できていることがわかった。

X線ライトシート顕微鏡の三次元の解像度評価

MAXWELL顕微鏡を用いた生体試料の三次元観察では、厚さが数十μm程度以上の場合は透明化処理が必要だが、それよりも薄い場合は必要ない。以下の動画は、ショウジョウバエの三次元イメージングを行った結果である。

研究では、世界で初めて、70nm程度の奥行き方向の解像度を持つX線ライトシート顕微鏡の開発に成功した。今後、超解像顕微鏡法を利用して面内方向の解像度を10倍程度向上させることで、等方的な高解像度三次元イメージングの達成が見込まれる。

また、低ノイズカメラの使用で単分子イメージング実験に必要な性能が得られ、脳神経回路網の三次元構造などについて画期的な科学的知見が得られることが期待できる。さらに、励起光として紫外線を使う蛍光顕微鏡技術や、新しい光遺伝学法の技術を相補的に用いることで、生命科学、脳科学の分野で有力なツールになることが期待できる。

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