リチウムイオンバッテリーの経済的なリサイクル手法を考案――華中科技大学

CREDIT: ©SCIENCE CHINA PRESS

華中科技大学の研究チームは2024年3月28日、使用済みバッテリーの正極材料から常温で直接リチウム金属を化学的に抽出するプロセスを開発したと発表した。多環芳香族炭化水素試薬とエーテル系溶剤から構成される抽出溶液を用い、従来の湿式精錬手法に比べて簡単で高効率、低エネルギー消費の化学リーチングプロセスを考案したものである。持続可能で優れたリチウム源を提供するとともに、回収されたリチウムが活性であって自発的な酸化還元反応を通じてリン酸鉄リチウム陰極材料を直接合成できるなど、高い経済性と実用性を持ち、リチウムイオンバッテリー(LIB)の持続可能な発展を促進すると期待される。研究成果が、2024年2月27日に『Science Bulletin』誌にオンライン公開されている。

LIB市場の旺盛な拡大によって、リチウム資源に対する需要が高まっている。使用済みLIBの陰極材料からリチウム金属をリサイクルする湿式精錬手法が確立されているが、金属のリーチングや析出、分離、高純度化など複雑な多段階プロセスから構成されており、経済性にはまだ改善の余地がある。

研究チームは、大量に発生する使用済みLIBから効率的にリチウムをリサイクルする経済的な手法について研究してきた。分子構造特性をベースにさまざまな酸化還元電位と溶解度を持つ抽出溶液をスクリーニングし、リチウムとの結合メカニズムについて調べるとともに、酸化還元電位と抽出効率の関係を系統的に解析し、理論計算と組み合わせて最適な抽出溶液を探索した。

その結果、多環芳香族炭化水素試薬とエーテル系溶剤から構成される抽出溶液により、使用済みLIBからリチウムを常温で直接抽出する、極めて簡単で高効率、低エネルギー消費の化学リーチング手法を考案することに成功した。回収リチウム材料の物理化学的および電気化学的分析評価によって、持続可能で優位性の高いリチウム源を提供できることを明らかにした。

さらに、この手法により得られたリチウムは活性であって、自発的な酸化還元反応を通じてリン酸鉄と反応し、直接的にリン酸鉄リチウム陰極材料を合成できることがわかった。近年、リン酸鉄リチウム陰極を活用したリン酸鉄リチウムイオンバッテリーが、熱安定性が高く高温環境においても安全に動作することから、自動車や工業機械などに用いられるようになっているが、研究チームは開発した回収プロセスにより得られたリン酸鉄リチウム陰極材料を用いて作製した56Ah角型LIBセルにおいて、最大容量の90%を1200サイクル後も保持する安定したサイクル性能を示すことを確認した。市販バッテリーからのリサイクルによりリン酸鉄リチウム陰極材料を大規模に合成でき、実用性の高さが実証された。

研究チームは、開発されたリチウム抽出手法は閉ループシステム内で作動し、環境汚染の可能性を極少化するとともに、リチウム抽出溶液は再使用に向けて繰返し使用できると説明し、LIBの持続可能な発展を大いに促進すると期待している。

関連情報

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る