東京工業大学は2019年7月17日、優れた光学性能を維持したまま、視野を面積比で600倍に広げた「虎藤鏡」の設計に成功したと発表した。
生物の機能は、複数の分子による多段階の現象が進行することで発現する。しかし、これまでの分子生物学では、1個ないし少数の分子の観察にとどまり、複数の分子の集合状態は可視化できなかった。
一方、研究グループは2017年、クライオ蛍光顕微鏡と呼ばれる極低温に冷やした試料からの蛍光を観察する顕微鏡を開発。色素1分子の3次元位置を1nmの空間精度で決定することに成功した。しかし、この顕微鏡の視野は、数μと細胞のサイズよりも1桁小さく、生体系への応用が困難だった。
そこで、研究グループは、この顕微鏡に用いる新しい対物鏡の設計に着手。球面鏡と非球面鏡からなる反射型の対物レンズである虎藤鏡の設計に成功した。具体的には、球面鏡と非球面鏡を石英ガラスの表面にアルミをコートすることで一体成形し、極低温にも耐えうる耐環境性能と完全な色消し性能を実現した。さらに、非球面鏡を用いることで設計の幅が広がり、0.93という高開口数を維持しながら、全ての単色収差を補正した。視野も直径72μmを確保している。
研究グループは、この成果が生命現象の光イメージングに道筋をつける新技術であると説明。近い将来においては、生命現象の分子レベルの可視化が実現するとしている。