早稲田大学は2019年11月8日、Istituto Officina dei Materiali(イタリア)と共同で、これまで単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の成長に有効とされていたアルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒にガドリニウム(Gd)を添加することで寿命が約3倍に伸びることを確認したと発表した。
SWCNTは軽量で強靭でありながら高い電気伝導性や熱伝導性を持つ素材だが、長尺化や効率よく成長させることが難しく、用途が制限されたり、高コストであることが課題だった。
SWCNTを成長させるには化学気相成長(CVD)法が用いられることが多く、その際にナノ粒子触媒が必要となる。触媒にはAl2O3下地上のFe触媒が有効であるが、この触媒の組み合わせ以上に有効なものは約15年間発見されていなかった。さらに、成長が途中で停止してしまうことは知られていたが、そのメカニズムの理解と制御が重要な課題となっていた。
そこで今回の研究では、多層カーボンナノチューブの成長で有効とされていたGdの添加が、SWCNTの成長にも有効であることを確認。Gdは触媒の寿命を最大で約3倍に伸ばす作用があることを明らかにした。
実験では、基板上に触媒をつけるスパッタ法を先行研究で開発したコンビナトリアル手法に適用し、Gdの膜厚がSWCNTの成長に与える影響を広範囲にスクリーニングした。その結果、Gdの最適膜厚は0.3nmという原子1層以下程度で、膜厚が大きすぎるとSWCNTの成長が阻害されることが分かった。これにより、GdはAl2O3のように下地として機能しておらず、異なる役割があることを確認した。
さらに、大気中の酸素などの影響を受けない特別なX線光電子分光法を用い、触媒の微細な化学結合状態の違いを検出しGdの役割を調べた。その結果、800℃で加熱し還元した際にGdがFeと結び付くことが観察され、FeとCの相互作用が弱くなっていることが明らかになった。
今後は、CNTをより長尺に成長させるため、下地への拡散を制御する研究を進めるという。また、同研究で構築した理論を、高性能な触媒開発と成長手法に応用し、より効率的な長尺SWCNTの成長を可能とする手法の開発につなげ、実用化を目指すとしている。