大阪大学は2020年9月29日、同大学大学院基礎工学研究科の研究チームが京都府京丹後市のながすな繭と共同で、細胞を含むインクにナノ絹糸を添加することで、細胞の生存を損なわずに立体印刷の造形性を向上させることに成功したと発表した。
生きた細胞を含んだインクを用いて立体構造物を印刷する3Dバイオプリンティングは、人の組織や臓器の代替物のほか、開発中の薬物の評価などに用いられる構造物の作製での活用が期待されている。実用化に当たって、細胞の生存を損なわずに良好な造形が可能で、安全性にも優れたインクの開発が求められている。
研究チームは今回、細胞を含んだヒアルロン酸ベースの溶液にナノ絹糸を添加し、押し出し式プリンターのインクとして用いた。
ナノ絹糸とは、蚕の繭糸を精練処理してできた絹糸に機械的処理を施すことでナノ繊維化した絹糸を指す。蚕の繭糸を精練処理して得られる絹糸は外科用縫合糸として長く使用されており、その他の医療用途での活用も期待されている。また押し出し式プリンティングは、3Dバイオプリンティングで最も多く検討されているプリント方式のことだ。
実験の結果、細胞の生存を損なわずに立体構造物を良好に造形できることが判明した。また、ナノ絹糸はヒアルロン酸に加え、アルギン酸やキトサン、ポリビニルアルコールといった安全性が高いとされるさまざまな成分と使用できる汎用性の高い素材であることも明らかになった。
今回の研究結果は、3Dバイオプリンティング分野に加え、絹の用途や消費の拡大に寄与することが期待される。