広島大学は2020年9月28日、有機EL用の高分子を溶かした溶液を筆で塗る手法を用いて、高い配向度の膜の作製に成功したと発表した。同発表によると、筆で塗る手法(ブラッシュプリンティング法)を用いた、発光する高分子の配向膜の作製は世界初の成果だという。薄型のフレキシブルデバイスの開発において、外光反射防止や高輝度表示に寄与することが期待される。
導電性高分子は、高解像テレビや折り曲げ型スマートフォン等の有機ELとして実用化されており、今後は体に装着するセンサーなどのフレキシブルデバイスにおいても基幹材料として用いられる見込みである。導電性高分子では、センサーの応答速度や画面の明るさ、省電力化に影響するため、分子の配向が極めて重要となっている。
同大学の研究チームは今回、緑色発光する有機EL用の導電性高分子(F8BT)を溶媒に溶かして溶液を作り、その溶液に筆を浸し、絵を描くように基板(たとえばガラス板)に塗り乾燥させることで、高分子が一軸配向する配向膜の作製に成功した。
続いて、配向膜の地図を顕微分光測定により作製して配向度を可視化し、各画素(750×750画素、画素サイズ1?m2)がX-Y-Zの三次元データ(偏光発光スペクトル、偏光ラマンスペクトル、配向膜の厚さ)を含むことで総数500万個に及んだデータを三次元空間で詳細に解析した。
その結果、緑色発光する高分子が筆で塗った方向と平行に最大80%以上配向したことが確認された。また、膜厚100nm以下で高い配向が得られることも判明した。膜厚400nmでは、配向度が4分の1に低下している。
その他では筆圧(せん断応力)が配向度に重要となること、最適な塗布速度より速くても遅くても配向度が低下すること、高分子のねじれ構造と配向度との相関、発光の大きな偏光比(最大11)なども確認された。
同研究チームは今後、筆圧や速度、溶媒、高分子、基板などの実験条件を変化させてさらなる研究を進める。また同大学は熊野筆の産地に隣接しているため、熊野筆を用いた配向膜作製にも着手している。