物質・材料研究機構(NIMS)および日油は2020年10月20日、天然塗料の柿渋にヒントを得て、金属やセラミックス、有機材料などさまざまな材料に接着して防錆などの機能を付加できる高分子を開発し、サンプル出荷を開始したと発表した。使用先の材料を選ばずに多機能を付加できる汎用的な接着材料として、インフラや半導体、自動車産業など多岐にわたる分野での活用が期待される。
接着剤や塗料の接着性は、接着材料と基材の表面との相性によって変化するため、基材によって接着しやすい材料が異なる。最適な接着性を得るには、基材ごとに最適な接着材料を選別しなければならず、製造プロセスに多くの時間やコストを要する点が課題となっていた。
両社の研究チームは今回、柿渋タンニンを用いて、金属や無機/有機材料など多様な材料の表面に良好に接着する高分子材料を開発した。柿渋は日本古来より用いられている天然由来の防水塗料であり、魚網や釣り糸、うちわ、傘などに活用されてきた実績を有する。柿渋タンニンは、分子内にフェノール性トリオール骨格からなるポリフェノール構造を有しており、さまざまな金属イオンや有機化合物と強固に相互作用する。
毒性が懸念される防錆処理方法の代替技術として、近年ポリマーで金属表面をコーティングする手法が提案されており、この手法では金属とコーティング剤との密着性が防錆性能を左右する重要な因子となる。同材料は、鋼のような金属材料に対して高い密着性を有しており、優れた防錆性能を発揮するため、金属の防水/防錆剤として活用できる。
また、同材料をチタン酸バリウムおよびニッケル微粒子の分散剤として用いたところ、従来の方法で作成した微粒子と比較してチタン酸バリウム微粒子で10分の1、ニッケル微粒子で7分の1にせん断粘度を低減できることが明らかになった。より高濃度な微粒子を安定的に取り扱うことができるようになることから、車載用電装品やIoT(モノのインターネット)製品、有機半導体デバイスなどの小型化、高性能化に寄与することが期待される。
さらに、材料を5~10重量%だけ導入した接着性高分子材料をフォトリソグラフィに適用したところ、アルカリ現像性を既製品に対して3分の2程度まで短縮できることを見出した。また、高温/高湿の環境下でも密着性を維持できることが確認されている。
サンプル出荷は日油が行っている。今後はディスプレイや半導体、自動車、インフラ補修などの分野での実装を進め、さらに接着技術が求められる他分野にも展開を図る。