音響で動作するバッテリー不要の水中ナビゲーションシステム

米マサチューセッツ工科大学(MIT)は、2020年11月2日、音から動力を得る水中ナビゲーションシステムを開発したと発表した。研究成果は、オンライン開催された「Nineteenth ACM Workshop on Hot Topics in Networks(HotNews 2020)」で2020年11月5日に発表された。

現在、世界で広く利用されているGPSは人工衛星から発信される電波を利用しているが、水中では電波が劣化するためにGPSを利用できない。そこで、海中では音響信号が利用されてきたが、音響信号の利用は電力消費が大きいという問題点があるため、研究者らは電池を使わないで音響信号を利用する手法の開発に取り組んだ。

開発された水中ナビゲーションシステムは「水中後方散乱定位(UBL:Underwater Backscatter Localization)」と呼ばれるもので、電池なしで位置をピンポイントで特定するシステムだ。

研究者らは、低出力の音響信号を伝達するために使用していた圧電材料に注目。圧電材料は、機械的ストレスに反応して電荷を発生させるが、その発生した電荷を利用して、圧電センサーが複数の音波を選択的に環境に反射させることができる。受信機は、後方散乱と呼ばれる一連の反射を、反射した音波(「1」の状態)と反射していない音波(「0」の状態)のパターンに変換し、そうして得られるバイナリコードが海の温度や塩分濃度に関する情報を伝えるという。

この技術を利用すれば、原理的には位置情報を得られる。観測装置が音波を出し、その音波が圧電センサーで反射されて観測装置に戻ってくるまでの時間を計れば、観測者と圧電センサーとの間の距離を計算できる。しかし、実際には海中では反響が起こり、後方散乱を測定するのは困難だという。さらに、音波は、対象物とセンサーとの間だけで反射するのではなく、海面と海底でも反射するため、位置計算は複雑になってしまう。

そこで、研究者らは、単一周波数から成る音響信号を送信するのではなく、ある周波数範囲の音響信号を送信する「周波数ホッピング」を利用して反射の問題を解決した。周波数ごとに波長が異なるため、反射した音波は異なる位相で戻ってくる。この戻るタイミングと位相の情報を組み合わせると、観測者は追跡装置までの距離を特定できる。しかし、この手法は深海シミュレーションでは成功したが、浅瀬では反射が乱れるため、信号のビットレートを下げる必要が生じた。そのため、観測装置から送られてくる各信号の間の待ち時間を長くすることで、各ビットの反射が次のビットに干渉する前に減衰するように対応した。

ところが、実用面でさらなる課題が浮上した。低ビットレートでは、動いている物体の位置特定に必要な情報が得られる頃には、物体がその位置から既に移動してしまっているため対応できないのだという。

本研究には、浅瀬で必要とされる低ビットレートと、動きを追跡するために必要とされる高ビットレートとの間の競合を解決する課題が残っており、研究者らはUBL技術の改善に取り組んでいる。

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