光誘起超伝導における「マイスナー効果」の観察に成功 独マックスプランク物質構造動力学研究所

© Sebastian Fava, Jörg M. Harms

ドイツのマックスプランク物質構造動力学研究所の研究チームは、超伝導体の磁場強度を高速で観測できるシステムを開発し、光照射により励起される高温超伝導体「YBa2Cu3O6.48」において、超伝導体の特徴の一つである内部磁場を排除する「マイスナー効果(Meissner effect)」の観察に成功した。研究成果は、2024年7月10日付で『Nature』に発表された。

超伝導は、電気抵抗がゼロとなることで損失く電流が流れる相転移現象で、特定の導体において周囲の温度よりはるかに低い温度(転移温度)以下で発現する。近年、転移温度よりも高い温度で超伝導の特徴が現れる「非平衡高温超伝導」の研究が盛んだ。レーザーパルスの照射によって非平衡状態にすることで発現する「光誘起超伝導(light-induced superconductivity)」と呼ばれる現象の特性を明らかにし、平衡状態の超伝導の特性をどの程度再現するかを解明することは重要だ。しかし、光誘起超伝導の効果は数ピコ秒しか持続しないため、磁場の変化を正確に測定することは不可能であった。

マックスプランク物質構造動力学研究所の研究チームは、超伝導体の磁気特性を非常に高速で監視できる新しい実験を開発し、レーザー照射された化合物YBa2Cu3O6+xを調査した。その結果、光励起されたYBa2Cu3O6.48は、抵抗がほぼゼロであることに加え、内部から磁場を排除していることを発見した。この実験は、調査対象のサンプルの近くに観察用の結晶を配置し、それを使って磁場強度を測定することで可能になった。この結晶は、磁場の変化をフェムト秒レーザーパルスの偏光状態の変化として反映し、磁場の時間変化をサブピコ秒の分解能で高感度に検知できるという。

研究チームが観測した光誘起磁場排除は、YBa2Cu3O6+xが冷却によって平衡状態で超伝導が発現したときに測定されたものと同程度の大きさだ。これは、材料を光によって非平衡状態へと駆動することで、その超伝導特性を周囲の条件に近づける効果的な方法である可能性を示している。また、YBa2Cu3O6.48の光誘起超伝導の微視的な起源については解明されていないところがあるため、理論的にも今回の結果が重要なベンチマークとなる。

YBa2Cu3O6+xでは、平衡超伝導の転移温度を超えても超伝導秩序が完全に消失することはなく、ある程度無秩序状態のような局所的に揺らぐ超伝導秩序が残ることが確認された。研究チームは、この発見は、光励起によってこの揺らぎ状態を同期させることで、材料が平衡状態で超伝導になる転移温度よりもはるかに高い温度、さらには室温においても超伝導秩序を回復できることを示唆するものだとしている。

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